週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第159回 笑顔が消えない女
前回に続いて「ザ・面接 VOL.125」に登場する女性の話である。今回は2番目に面接にやってくる20歳のソープ嬢。セックスになってなくて、みんなから顰蹙(ひんしゅく)を買った。中折れ委員会にタオルが入ることはままあったけれど、女性の顔にタオルが入ったのは「ザ・面接」始まって以来である。
事前面接したときも、彼女はゼロか百だろうなぁと僕は思った。プロデューサーから回ってきた資料には、彼女の言葉として「セックスのときは手を止めてはいけない」「その時間だけでも、世界で一番愛してあげる。それが極意」と書いてある。僕との事前面接でも「セックスで女がマグロではダメだと思う」「一方通行ではダメなんです」と言う。期待するではないか。
画の中でも彼女は「セックスが好きでソープ嬢になった」と言っている。隊長が「おカネかい?」と聞いたときに「まったくそれはない」と。オッパイが「肉感的やなぁ」と言えば、「いえ、Bカップです」と受け流しておいて「でも、心はFカップ」だと言う。
ところが、男優が股間を舐めているときも、彼女は見下ろしたり、頭をなでたり、最後まで笑顔は消えずに冷静でいる。挿入後もそれは変わらず、男優が中折れしないほうが不思議なくらいだった。
ずっと見ていた審査員のひとりが、ついに泣き出した。「ようこそ催淫(アブナイ)世界へ14」で撮った主婦である。その際、彼女はトランスの世界を経験しているので、他人の気持ちを感じ取るセンサーが働いていたのだろう。「奥さん、何が伝わってきた?」と僕が訊くと、「悲しい。感じてるのか、感じてないのかもわかんないし、男性が苦しそうで……」と答えた。
「一方通行ではダメなんです」と言っていた本人が、まさにその「一方通行」を体現してしまった。僕は以前撮った「お姉様淫女隊」シリーズのある作品を思い出していた。それは高学歴の男ばかりを淫女隊が“筆おろし”していくという内容だが、その中で慶應大学を出て商社に勤めている坊やは、きっちりマニュアルを持っていた。彼の姿と今回のソープ嬢がオーバーラップする。
彼女は心の問題を言っているが、結局のところマニュアルなのだ。「愛してあげる」とはこういうことなんだと頭の中で考え、男の頭をなでたり、「よしよし」と見下ろしているようにしか見えない。それはひょっとするとソープのマネージャーから教わったことかもしれない。「手を止めちゃいかない」「マグロになっちゃいけない」。でも、マニュアルに縛られているから、肝心の相手にはまったく気持ちが向いていない。
当然というべきか、彼女に対する審査の結果は惨憺(さんたん)たるものだった。ゼロをつけた審査員もいる。「素敵な笑顔だけど、その笑顔が崩れなかった」「自分が男ならやりたくないタイプ」など、ボロクソの審査を受けて、最後に彼女の感想を聞こうと僕はカメラを向けた。すると彼女はこう言った。「私はみなさんよりも、誰からも愛されてないですよ。だから、たぶん私が理解できないんだと思いました。私からしたら、すごくみなさんが羨ましい。誰か愛してくれる人がいるから」
彼女の言いたいことがわかるだろうか? たとえば「私は一生懸命やったのに、それが伝わらなかった」と言うのならわかる。だが、彼女の言ったことは、まるで審査結果と噛み合っていない。「みなさんが羨ましい」? 「誰か愛してくれる人がいるから」? 彼女は何の話をしているのだろう。だから僕は「意味がよくわかんないんだけど」と言うしかなかった。
編集の段階で、撮った映像を見返す。彼女の場面も何度も見返した。撮っているときには「立派なことを言ってるわりには……」と思ったし、彼女に対する失望やイライラがあったのも事実だが、冷静に見返してみると、異なる一面が見えた気がした。
彼女は幼児期、親のスキンシップによる安心感や信頼感みたいなものが作られていなかったのかもしれない。事前面接でも現場でも、その話を彼女から聞いたわけではない。今までそういう女の子にたくさん接してきたから感じる匂いみたいなものだ。
彼女は19歳のとき、痴漢されたくて、被害が最も多い路線とその時間帯をわざわざネットで調べ、痴漢されそうな服で繰り返し電車に乗ったと言っていた。でも、一度も痴漢には遭わなかった。なぜ、そうまでして痴漢に遭いたかったのだろう。何を求めていたのだろうか。
あの現場で「こういうことが愛なんだ」と自分が信じたものを、彼女は実践していた。彼女は彼女なりに、ひたすら一生懸命だったのだ。最後まで笑顔を絶やすまいとして……たとえそれが空回りであろうと。
彼女が最後に言った言葉。「私はみなさんよりも、誰からも愛されてないですよ。だから、たぶん私が理解できないんだと思いました。私からしたら、すごくみなさんが羨ましい。誰か愛してくれる人がいるから」。その言葉は、実は彼女の中ではしっかりつながっていたのだと僕はやっと気がついた。
誰ひとり味方する者もいない中で、彼女はいっぱいいっぱいだったに違いない。カメラを向けられ、虚勢すら感じさせる表情。そんな状況で吐き出された言葉は、これまで誰にも言えなかった彼女の本音ではなかったのか……。しかし本音を吐き出すときでさえ、彼女は笑みを浮かべている。そこに怒りの色はない。いつもなら意味不明なコメントはカットして次に行ってしまうけれど、今回、彼女の言葉をすべて残し、最後はその笑顔を長いストップモーションにして、BGMまでつけた。僕は現場で理解してやることができなかったけれど、彼女の心の叫びが見ている誰かに伝わればいいなぁと思いつつ……。
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2012-03-09(00:00) :
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