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第133回 殴り込んできた女たち

 今から17年くらい前の話である。5~6人の女性がアテナ映像に殴り込んできたことがあった。上野千鶴子さんを筆頭とするフェミニスト集団である。

 当時、僕は「ザ・面接」シリーズを撮り始めていた。ご覧になった方ならおわかりだと思うが、初期の「ザ・面接」は、面接にやってきた女性を男優たちが問答無用で犯すというスタイルである。しかも、今のような部外者立ち入り禁止の部屋ではなく、真っ昼間、アテナの社員がふつうに仕事をしているオフィスの真っ只中で。

 フェミニストの女性たちは「レイプシーンは人権侵害」という主旨の抗議で押し掛けてきたのだ。同じ頃、バクシーシ山下監督の「女犯」も標的にされた。山下監督は真正面からやり合ったと聞いている。

 で、僕はといえば、それまでAV雑誌のビデオ評などでさんざん叩かれていたから、バッシングには慣れている。だから、彼女たちの言い分もとりあえず全部聞いてみることにした。こう言うと怒られるかもしれないが、実際に話を聞いてみて、僕は彼女たちのことを「純粋で可愛いなぁ」と思った。

 しかし、誰しも人にわからなければ何でもするという面もあり、決して清く正しくばかりは生きられないのが人間だ。残念ながら、彼女たちの主張からはそこがまったく感じられなかった。ただただ正しいのである。僕からすれば、それは真理の片極にすぎないように思えた。

 話を聞き終えた僕は、やり玉にあげられた「ザ・面接」について彼女たちにこんな話をした。

 「ザ・面接」に限らず僕の作品は、コンセプトありきでそこを演じてもらうわけじゃないから、出演する女性と事前に会って、いろいろな話を聞く。その女性が今、何を考えているのか、本当は何を求めているのか。そんな中に作品のテーマが潜んでいることが多い。彼女たちの心の奥深くに入っていくと、家族や周囲に対してずっと優等生を演じてきた子でも、実はもう限界に来ていることが見えてくる。そんな子には一種の破壊願望みたいなものがあって、それまでまわりに合わせてきた偽りの自分を、どこかで打ち破りたいと思っている。ところが、自分ひとりの力ではなかなか打ち破れないと彼女たちは言うのである。彼女たちの破壊願望は、性の面ではレイプ願望として立ちあがってくる。もちろん実生活でレイプの被害に遭うことを望んではいないが、イメージや妄想の中には、確かにそれが存在しているのだ。そんな彼女たちに僕は「じゃあ、こうしましょう」と提案する。「○月○日に撮影を設定します。この日はどこで何が起きるか、わかんないよ。男優さんたちがいきなりあなたを犯すかもしれない。でも、レイプっていうのは、レイプされる人が主導権を握るんだからね。あなたが抵抗してくれないと、レイプにならないでしょう。あなたが激しく抵抗すれば激しいレイプになるし、控えめに抵抗すれば控えめなレイプになる。だから抵抗することにあなたも酔えばいい。しんから恐怖心を出せばいい。演技だけでやっちゃうと、あなたの望んでいるような自己破壊はきっと起こらないから……」。

 とまぁ、こんな話をフェミニストの女性たちを前にしたのだった。「ザ・面接」を見て抗議に来たのなら、作品の最後でレイプされた当の女性たちがどんな表情をしていたかも見たはずである。ならば、僕の話が単なる言い逃れでないことくらいは伝わったのではないかと思う。いや、それにもまして、女にはそういう部分があるということを彼女たちは否定できなかったのではないかと。

 やってきた女性たちの中でひときわ活動的だった藤本由香里さん・宮淑子さんの態度が軟化した。それは言うなれば「絶対許せない」から「もう少し聞いてみよう」という変化だった。こうして女性たちと僕との「語る会」が月2回のペースで催されることに決まってゆく。最初の頃の「語る会」は、事の発端ともなった「ザ・面接」を、まずみんなで見て、そこで感じた疑問をぶつけてもらい、そのひとつひとつに僕が答えていくという形をとった。そしてだんだん慣れてくるにつれて、毎回新たなテーマを設定し、忌憚のない意見を出し合う場となっていった。

 女性たちにとっては、そんな集いが新鮮だったのか、出席した人が自分の友達を誘うことになり、登録者の総数は最大130人近くまで膨れ上がった。「語る会」では、帰りがけに僕の作品の中から好きなものを持って帰って見てもらうことにした。最初にクレームをつけてきたフェミニストをはじめ女性たちにいちばん人気があったのは「ザ・面接」シリーズである。なぜ人気が集まるのかを「語る会」のテーマにのせたこともある。すると、「正直なところ『ザ・面接』がいちばん子宮に来るのよねえ」と彼女たちは口をそろえて言うのだった。

(つづく)

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

第132回 セックスで健康&綺麗になる!?


 これまでセックスの効用として、“つながり感”などメンタルな面を中心に書いてきた。たとえば、親を憎悪している女の子がビデオに出て、その後「親の気持ちがわかるようになりました」という手紙をもらったりするけれど、これは精神的な効用だ。

 今回は、これまであまり書いてこなかったフィジカル、つまり肉体的な効用について記してみたい。

 長いこと一緒にやっているメイクさんがいるのだが、彼が現場でよくこんなことを言う。「メイクするたびに変わるんだよねぇ。ひとしきり終わって戻ってきて、顔を直すたびにいい顔になって、ツヤツヤだし、張りが出てくるし、なにより化粧のノリがぜんぜん違うんだよなぁ……」。

 僕の作品では一人の女の子が何回もセックスすることが多いので、撮影前、何度かの休憩、撮影後と、彼は何回も同じ子の化粧をさわる。そして仕事柄、肌の変化には人一倍敏感なのだ。実際、いいセックスをした女の子は、顔つきまでも変わってくる。精神的に解放されて……というのもあるんだろうけれど、僕は体自体も内側から何か変化が起きているように思えてしかたないのだ。

 このほかに多いのが、たとえば冷え症。もともと女の子には冷え症の子が多い。なかには秋口から電気毛布のお世話にならないと眠れないという子もいる。そんな彼女たちが現場でオーガズムを体験すると、その後、「監督、冷え症が治ったよ!」と言うのである。

 こんなこともあった。奥多摩の旅館で泊まり込みの撮影をしていたとき、夜中にとつぜん女の子が出血し、痛みに七転八倒しはじめた。聞けば、大きな病院で子宮筋腫の診断を受けており、近々手術しなければならないのだが、混み合っているため手術の順番を待っている状態なのだと。

 その夜、苦しむ彼女を助監督があわてて近くの病院へ連れていった。ただ、そこではとりあえず痛み止めの注射を打っただけで、子宮筋腫については掛かりつけの病院に相談するようにとのこと。一晩ぐっすり寝て、痛みも消え、本人も大丈夫だと言うので、様子を見つつ撮影を行なった。そして、彼女は生まれて初めてのオーガズムを体験した。

 後日、彼女から聞いた話によれば、掛かりつけの病院に行ったところ、主治医からは「筋腫が消えている」と言われたそうである。もしそれが本当ならば、いったい彼女の体の中でどんな変化が起きたのだろうか?

 僕がセックスの効用について語る原因というか、もともとのキッカケは、40年前、日活ロマンポルノ裁判の被告になったことが影響している。裁判に勝とうとすれば、論陣を張るために〈性の肯定化〉、要するにセックスのプラス面についていろいろ材料を集める必要が生じた。

 裁判では、僕の生い立ちもあって、「こういう人間だから、こんなものを作るんだ」と人格までもが貶(おとし)められた。屈辱感から、つい「そういうオマエらだって、してるんだろうが!」と言ってやりたいところだが、女の股ぐらでメシを食っている事実は動かしがたく、自分の中にも一抹のやましさが残る。だから裁判が終わったあとも、セックスは悪いことじゃないんだという僕なりの実感がつねに欲しかったのである。

 今はメジャーな女性誌がセックスの肯定面をくり返し特集する時代になった。隔世の感は否めない。だが反面、内奥ではセックスに失望している女の子がとても増えている。だから、僕は自分に向けてだけでなく、ある意味、これまで以上にそれを言わなければとも思うのだ。

 さて、肉体的な効用として、肌や表情、冷え症、子宮筋腫など、思いつくままにつづってきたけれど、体のメカニズムから見たとき、なぜこういった変化が起きるのだろうか?

 今、ネットでそれをのぞいてみると、専門家の解説も含めていろいろなことが書かれている。僕は医者ではないので難しいことはわからないものの、自分なりに整理してみたのは、次のようなことである。

 性的に高揚するだけで、各種ホルモンの分泌が促進される――ということが実証されているようだ。

 たとえば、βエンドルフィンをはじめとする〈快感ホルモン〉。このホルモンの分泌が盛んになると、解放感が増大し、ストレスが解消される。エストロゲンをはじめとする〈性ホルモン〉は細胞を若返らせ、老化を防止する効果がある。また、胸腺ホルモンをはじめとする〈免疫ホルモン〉は文字どおり病原菌に対する免疫力を増大させる。

 これらは平たく言えば、心身ともに健康になり、同時に綺麗にもなる、ということである。その事実を知らないでするより、知ったうえでセックスをすれば、効果はさらに大きいと思うのだけれど、いかがだろうか?



(「週刊代々木忠」は2週間、夏休みをいただきます。次みなさんにお目にかかるのは8月26日(金)になります)

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