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第340回 「満たされない女」と「向き合えない男」


 先日撮った女性は○○一族と言われるような名家の出身だった。結婚も許嫁(いいなずけ)とした。これがお見合いならば事前に相手のことがわかるし、断わる選択肢も残されているが、許嫁は当人同士が会っていないうちから両家の親が婚姻を決めてしまう。彼女はそうして結婚し、10年後に離婚した。

 夫婦っていったい何だろう? そんな思いが現場に漂っていたからか、男優の森くんから休憩時間にこんなことを訊かれた。「監督の家庭での役割って何ですか?」。僕は家での日常を思い返してみた。「うーん、ないね」。

 しいてあげれば、関西風すき焼きを作るのと花を活けるくらいである。すき焼きは大阪の花屋に住み込みで働いていたとき、ご主人が作るのを見て覚えた。女房は「あなたのすき焼きのほうが美味しいから」とこれだけは僕に任せる。華道の心得が多少あるので、花を活けるのも女房よりは上手いだろう。しかし、それ以外の家事を僕には一切させない

 「男子厨房に入らず」という言葉があるが、女房がそれを地で行ってるのかと言えば、ちょっと違うような気がする。口に出して言うわけではないけれど、「家のことするんだったら、仕事やんなさい」みたいな感じが近い。おそらく女房にとって僕は子どもみたいなものなのだろう。だから、家庭で「これをしなきゃいけない」という役割が振られていない。

 惚気(のろけ)のようで申し訳ないが、僕は女房と出会えたのが大きかったと今でも思っている。やはり男は女次第だなぁとも。母性の育った女性と一緒にいれば、男は仕事にもセックスにも自信がつく。ところが、今の若い人たちは「そもそも出会いがないんですよねぇ」と言う。

 ピンク映画の頃から数えたら足かけ50年、性を撮ってきた。「オーガズムとは何か?」を自問自答しつつ、「どうしたらオーガズムを体験できるのか?」をビデオの現場で試してきた。それを一冊にまとめたのが『プラトニック・アニマル』だった。

 その後、20年の歳月を経て男も女も変わった。もっとも男は、男優以外、直接会う機会がないので、女の子たちの話から見えてくる風景ではあるけれど。その変化をひと言でいえば、先ほどの「出会いがないんですよねぇ」もそうだが、男も女も恋愛ができなくなってるという点である。

 セックスする相手がいたとしても、多くの人が“本当は好きじゃない人”とセックスしている。50人、100人とセックスしている子でも、じっくり聞いてみると、やはり寂しいのだ。恋愛とセックスはもともと別物ではある。だから恋人じゃなくてもセックスはできる。だが“恋愛感情”のないセックスからオーガズムは絶対に起きない。

 『プラトニック』では、彼女や彼氏、妻や夫といった相手がすでにいる前提でオーガズムを説いた。だが、今や問題はセックス以前に存在している。さて、どうしたものか? そんな思いが色濃くなったとき、幸運にも『つながる』を出版する機会を与えてもらった。

 『つながる』は「満たされない女たち」と「向き合えない男たち」が「どうすればつながれるのか?」について綴った。僕が半世紀、性について試行錯誤してきた到達点とも言える。今月、新潮文庫にも入ったので、興味のある方は読んでみてもらえるとうれしい。






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