週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第166回 共感する能力
自閉症という病名を聞いたことがない人はおそらくいないだろう。患者は年々増えつづけ、厚労省の統計によれば、平成5年から平成20年までの15年間で6.75倍にもなっている。低年齢で発症するが、軽度のものまで含めると100人に1人くらいの割合だという。
自閉症の主な症状としては、母親をはじめ他人と目を合わせない、抱っこされたりあやされたりしても歓ばない、コミュニケーションが成り立たない……。原因としては、遺伝子や染色体の異常、乳児期の母子関係、陣痛促進剤や水銀説まで取り沙汰されてきたけれど、先天的なものか、後天的なものかさえ、明確にはわかっていない。
ただ、以前このブログでも少しふれたが、自閉症はミラーニューロンの機能不全から起きるのではないかという説が近年、有力視されているようだ。マルコ・イアコボーニ著『ミラーニューロンの発見』(塩原通緒訳、2009年、早川書房刊)には〈目下、さまざまな技法を駆使して人間の脳を調べている研究所が少なくとも六つ、自閉症者のミラーニューロン領域の障害を確認している〉とある。
ミラーニューロン
とは、他人の感情を自らの脳内で“鏡”のように映し出す神経細胞だから、そこに障害があれば、相手に対してイマジネーションが湧かず、感情的なつながりも得られない。「共感する能力」の欠如が原因だと言われれば、目を合わせなかったり、抱っこされても歓ばなかったり、コミュニケーションが成り立たないというのも、うなずける気がする。
ところで、統計的に見ると自閉症の男女比が等分ではないのをご存じだろうか。約4対1の割合で男子のほうが多いのだ。4対1ということは、自閉症患者の80%は男子ということになる。なぜ、それほどまで男に偏っているのだろう?
それはもともと女のほうが「共感する能力」が高いからではないかと僕は思う。女同士で話をしていて、1人が悩みを打ち明けながら涙を流すと、聞いているほうの女の子も、自分のことではないのに一緒に泣いてしまうということがよくある。
撮影現場でも、たとえば2人の女の子を呼んだ際、それまで面識がなく、なおかつどちらもレズではなかったとしても、その場でレズができてしまう子が圧倒的に多い。ところが、男はそうはいかない。ホモではない男2人にいきなり絡めと言っても、できる者などほとんどいないのだ。女が「共感型」だとすれば、男は「思考型」だからだろう。
これは生来の違いも起因している。男のほうが力が強いから外敵から家族を守ったり食料を手に入れてきたり、それに対して女は子を産み育てるように、お互いの体ができている。だから、育児や家族の世話をする女のほうが生まれつき「共感する能力」が高いと言える。それに加えて男は、教育の名のもとに自分の外側にある知識や情報を手に入れることを是とする時代が長かった。
だが、時代は変わった。今や女性が社会進出を遂げ、男性に負けず劣らず外側の知識・情報を手に入れようとしている。セックスのマニュアルもしかり。すると、どうなるか? 「共感型」から「思考型」の女性が増えるということである。コミュニケーションが苦手、相手の心が読めない、なかなか出会いがない……恋愛できない女の子が増えているのは、そんなところにも原因があるように僕には思えるのだ。
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2012-04-27(00:00) :
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第165回 つながれなかった男たち
彼と初めて会ったのは、助監督として呼んだピンク映画の撮影現場だった。もう三十数年前のことだ。もともと水商売をしていた男で、人扱いが上手かった。仕事もテキパキしている。アテナ映像を興したとき、彼をプロダクション部門の責任者として迎えた。愛染恭子を育てた男である。
彼はもともと酒が好きだったが、会社に出てきても目は真っ赤で、酒の匂いもぷんぷんさせるようになっていった。これではどうにもならないと、僕はプロダクション部門を独立させることにした。そうすれば責任もリスクも背負う。なにより自分で判断しなければならない。
とはいえ、そこには当時、月に何千万と稼ぐ愛染も所属している。充分やっていけるだろうと僕は思った。ところが、彼はプロダクション経営よりも毎晩飲むほうに忙しかったようだ。
肝臓がガタガタで入院した病院の医者から「親族を呼んでください」と言われたとき、僕も病室に駆けつけた。「しゃんとせんかい!」と彼の手を握るのだが、死が近づくにつれて指先からだんだん冷たくなっていくのがわかった。まだ50代だった。
アテナの創業期には、元KGB(ソ連国家保安委員会)と称するドイツ人とも一緒に仕事をした。当時、撮影でフランスに行く際、モスクワ経由パリ行きが早いのだけれど、通訳である彼が断固としてモスクワ経由を拒否するものだから、遠回りのアンカレッジ経由で行ったのを覚えている。
彼はもともと新聞社の特派員として日本に来た。そして日本の女に惚れて、子どもができた。僕が会ったころは、KGBから抜けて主に外タレのプロモーターを生業(なりわい)としていた。
今のようにプロダクションが確立している時代ではなかったから、外国人のみならず出演希望の女の子を紹介してくれる彼は貴重な存在でもあった。ちなみに「ザ・面接」シリーズで次の場面へ進むときに差し込まれる「NEXT」は、彼の声を今もそのまま使っている。
彼も酒が原因で50代で亡くなった。線香を上げに家に行ったとき、奥さんから特派員時代の写真を見せられた。そこにはインドのネール首相はじめ中東の要人たちにインタビューする彼が写っていた。元KGBというのも、あながち嘘ではなかったのかもしれないと遺影に手を合わせつつ思った。
かつてこのブログに
「死んだ男が残したものは」
という話を書いた。その話の主人公である湯本(享年59歳)も、毎晩、焼酎を浴びるように飲んでいた。一周忌の墓参りがてら湯本の実家を訪ねたとき、彼が亡くなった部屋の引き戸には大きな穴があいたままだった。亡くなる前、暴れたのか、倒れたときにぶつけたのかはわからないが、壮絶な死にざまだったのだろうと思う。
彼らは3人が3人とも社交的だった。その場を盛り上げるし、一緒に飲んでいる人はおそらく楽しい酒席だったことだろう。けれども、ずっとそばにいた僕にはわかるのだ。彼らが見せる底抜けに明るい笑顔も、豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格も、本当はもういっぱいいっぱいの状況であることを。
真に酒が好きな人は酒の味を楽しむ。だが、彼らは味わうどころではなく、まるで何かから逃げるように酒をあおった。まるで賑やかに騒いでないといたたまれないかのように。
彼らはいったい何から逃げようとしていたのだろう。きっとそれは孤独からだ。自分の本当の姿を気取られまいとして、虚勢を張り、違う自分を演じる。そしてそのギャップに苦しみ、また酒へと逃げる。しかし、違う自分を演じるということは、そもそも自分が本当の自分とつながっていないということである。自分とつながれない人間が、どうして人とつながれるだろう。
これは、男性体験が100人、200人という女性たちと根っこは同じだ。彼女たちは次から次に男とセックスすることで、彼らは酒を暴飲することで、孤独を束の間まぎらわす。どちらも、まさに自傷行為なのである。
ずっと僕は彼らとお互いを見せ合ったつもりでいた。だから、彼らにとって耳が痛いことも臆せずに言ったし、感情もぶつけた。でも、死なれてみて、結局、僕もつながれていなかったんだと思う。未熟だったし、いま思えば僕も彼らとチョボチョボだったのだ。
にもかかわらず、なぜ僕は酒に溺れて死ななかったのか……。もともと彼らのようにガブガブ飲めるほうではなかったというのもある。そして、幼いころから自分だけが頼りという生き方を強いられてきたのもあるように思う。
彼らのうち日本人の2人は、いずれも地方出身だが、ともに名家に生まれ、幼少期、経済的には何不自由のない生活を送ってきている。ドイツ人の実家は知らないけれど、新聞社の特派員として要人たちにインタビューするくらいだから、やはりエリートなのだ。
それにひきかえ僕は、戦後、自分の食うものは自分で手に入れるしかないような生活だった。高校の時に故郷を飛び出してからは帰る家すらない。せめて自分くらいは自分の味方をしないともう生きていけない現実。その中でたったひとつ身につけたのは「僕自身を信じるということ」だったのではないかと思う。
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第164回 不便さという力
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第163回 ある女優の気づき
USTREAM に「ショー・タマホリ」という番組がある。どんな番組かというと、紹介欄には「"地獄のしょこたん"こと女優・中原翔子と爆裂エンタメ記者・森田まほ、熱唱フリーライター・大道絵里子がお送りするガールズ闇鍋トーク番組」とある。
3月17日配信の
「ショータマホリ#02」
では、3月刊行した『つながる』が彼女たちによって料理されるというので、どんな「ガールズ闇鍋トーク」になるのか、俎板(まないた)の鯉になったつもりで見てみた。今回は、その中で語られた中原翔子の言葉を紹介しつつ、それに対する僕の感想をつづってみようと思う。
中原は『つながる』を読みはじめて、「いきなり自分の中の問題点が目の前に現れた」と言う。彼女の語る「問題点」とは次のようなことだ。
1996年1月、中原は目合(まぐわい)体験をしてオーガズムを得る。その4~5年後に僕の『プラトニック・アニマル』を初めて読む。『プラトニック』はオーガズムについてまとめた本だが、実体験している彼女には僕の言わんとすることが腑に落ちたようだ。彼女の言葉を借りれば「代々木イズム」を実践しているつもりだったし、実践できていると思っていた。ところが、このほど『つながる』を読んで、それは結局「形」でしかなかったことに気づいたというのである。
とかく人間は形にとらわれがちである。だが、自分のことだからこそ、なかなかそこに気づけない。本当にできているのか、それとも形にとらわれているだけなのか? 中原がそこに気づけたのは、彼女が女優だからかもしれないと僕は思った。演技とは感情表現だ。分析するよりも感じる。だから「何かが違う」とどこかでは感じていたんじゃないだろうか。それがたまたま『つながる』を読んで鮮明になったのではないかと思うのだ。彼女が言った「自分の中の問題点が目の前に現れた」という言い方も、そんなニュアンスを感じさせる。
中原は目合(まぐわい)体験をしたのち、いろいろ紆余曲折があって潮吹き体質になっていく。それを彼女はこんな表現で語っている。「揉めた男女の進退の話。俺たちの関係は白なのか黒なのか――という話をしているときに、相手はグレーを選んだ。そうなると、白にしたい私もグレーしか選べない。そのときにぐっと自分を押し込めた。ぐっと押し込めたら、ビシャッといった。そういう体質になっちゃったと能天気に構えていたけれど、あれは私の中のストレスだったのよ。私の涙だったんだ」。
潮吹きはたしかに体質もあるだろうが、やはり相手に心を開けないからこそ起こるということが中原の体験にもとづいて語られる。「私はそれを出し切ったことによって、やっと相手を受け入れる態勢ができるということを毎回くり返していた」と。僕が『つながる』に書いた潮吹きに関する考察は、現場の経験から導き出したものだが、当然ながら自分の体で体験したわけではない。だから今回の話は、その考察をもうひとつ彼女が裏づけてくれたということだろう。
中原は今回のトークで、自分の私生活ばかりか本名(ケイコ)も出している。これまでは彼女は女優を優先させて生きてきた。だからプライベートよりも官能映画に出たときの濡れ場のほうにリアリティを感じてきた。「ケイコと翔子が一見ミックスしているようで、実際には翔子だけがどんどん独り歩きしている。分離が起きて、ケイコが下敷きにされている」と言う。
そんな中原が本書を読んで、ケイコと翔子を共存させたいと思い、融合させるにはどうしたらいいのだろうという気づきが起きているのである。女は深いなぁと思わざるを得ない。僕が何十年もかかって「こういうことなんだろうか」と辿り着いたものを一瞬にして読み取ってしまうのだから。
中原に限らず「ショータマホリ#02」に出演した女性たちは、みな会話が理知的で、それでいて猥褻(わいせつ)、なおかつ説得力がある。並の男じゃ太刀打ちできないようにも思う。
『つながる』は女性に読んでもらえたらと思って出した本だが、おもに男性に向けた『快楽の奥義』(角川書店)という本も4月13日刊行になる。「なんだよ、10年の沈黙を破り……とか言いつつ、いったん破ったら立て続けか!?」と思われることだろう(僕もそう思う)。ほぼ同じ時期に2つの出版社から声をかけてもらったのは偶然だが、世の中にメッセージを発信するタイミングとして今2つが重なったのには、じつは偶然ではない「意味」があるのかもしれないとも僕は思っている。
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