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第85回多重人格の女性たち(2)

 「飲みなよ」。そう言って、テーブルの上に落としたてのコーヒーを置いた。ハルカは黙ってそのコーヒーを口に運んだ。

 「きょう、
ミナが店長とエッチしてるとき、途中で入れ替わったんだって?」。私を見据えたハルカの体が微妙に揺れた。一見、貧乏ゆすりにも見える。それが返事だった。

 「店長、萎(しぼ)んじゃったらしいね」。気がつくと、私の言葉も挑発的になっていた。返事の代わりにタバコの煙を吐いてよこした。「どんなSEXが好きなのかな......」。
ハルカは黙ってタバコを揉み消した。「これは......監督として訊いてるんだけどなぁ」。しかし、このときの私のしゃべり口調は監督・代々木忠ではなかった。完璧と言っていいほど昔のワルの時代に戻っていた。

 マズイと思ったそのとき、「男をよがらせるのが好きなんだよ」。
ハルカが私に初めて発した言葉だった。「そっかー、男がよがると濡れるんだ」。「......濡れるよ」。こんな調子で会話は始まった。

 上り坂の若いヤクザと話をしているような錯覚に陥る。こいつが男だったら、いいヤクザになれる。もし生き残れたら......。私は思わずそんなことを考えていた。だれの中にも、この攻撃性はある。しかし、私たちにはそれとは対極にある社交性のようなものが働く。そして、その攻撃性を中和してくれる。

 ところが、多重人格の人たちはそうではない。母性、理性、攻撃性、依存性、社交性、天使のごとき子ども、それらが独立した形で出てくる。優等生といわれる子どもたちの中には、きっとこの攻撃性が凝縮された形で内在しているのだろう。怖いなー。顎を心持ち上げ、私を見下ろすような形でガンを飛ばしつづける
ハルカの表情を前にして、そんな感想を持った。

 ツッパリ通す
ハルカを前に、久しぶりに心地よい緊張感が体の中を走る。その後は会話が弾んだ。ハルカは自分の着ている服が気になりだした。ミナが着てきたスーツがダサいと言って苦笑いしたのがおかしかった。

 私が考えているSEX観も話した。
ハルカは黙って聞き入った。これは意外だった。しかし、ハルカは自分のやり方を貫くと意思表示した。私は「それはそれでいい」と言った。「ただし、撮影現場で何が起きても、俺は知らねえよ」と言うと、ハルカは初めて声に出して笑った。

 殿と香奈と店長の関係について、
ハルカの考えを訊いてみた。「そんなの知らないよ」の一言だった。「きょうは来てくれてありがとう」。私は手を差し出した。ハルカは無言のまま握り返してきた。力強い握手だった。ハルカは手を離すと、黙って目を閉じた。

 数分後、
ミナが表に出た。ハルカと私のやりとりの一部始終を、ミナは中から聞いていたらしい。そしてこう言った。「ハルカは監督を少し信頼してもいいと感じたようです」。私は素直に喜びを表現した。

 
サヤカ(仮名)(筆者注:香奈の中の人格。4歳くらい)が監督に会いたがっていると言う。サーちゃんには正直会いたい。終電まであまり時間がないが、少しだけ代わってもらうことにした。

 私は
ミナの横に座って待った。ミナがクマのぬいぐるみと花柄の小さなタオルを抱いて目を閉じる。サーちゃんはすぐに出てきた。「代々木おじちゃん、嵐だったの! 香奈お姉ちゃんが作ったの。サーちゃん、中で大変だったの!」と言ってまとわりついてくる。「サーちゃん、オレンジジュースが飲みたい」と言うので、冷蔵庫を探す。ワンパックだけ残っていた。ホッとする。

 「
ユリちゃん(仮名)(筆者注:香奈の中の人格。7歳くらい。数カ月前から行方不明になっていた。小学生のときのいじめ体験を請け負った人格)が帰ってきたんだよ。ずっと海で遊んでいたんだって。クジラさんやイルカさんのお友達がいーっぱいできたんだって。サーちゃんね、今度つれていってもらうの。ユリちゃんと約束したんだよ。クジラさんの背中で遊ぶの。クジラさんはね、お水をピューッと吹き上げるんだって。サーちゃん、そのお水でお空まで行って、お空でも遊ぶの」。

 
サーちゃんは、ここ2、3日のミナと店長のやりとりを中からしっかり観察していた。「ミナお姉ちゃんね、ずーっと香奈お姉ちゃんの真似してたんだよ。でもね、リョウおじちゃん、すぐにわかったんだよ」。ミナは店長の前では決して肌を見せなかったらしい。「ミナお姉ちゃんね、ジーンズのおズボンはいてー、いっぱいお洋服着てー、汗ボタボタ出してー、お風呂から出てくるんだよ。香奈お姉ちゃんはいつもスッポンポンで出てくるから、すぐわかっちゃうのにね」。サーちゃんはなんでもしゃべってしまう。

 
ミナは当初、香奈を演じていたが、店長はすぐに見抜いた。「ミナお姉ちゃん、お寝んねのときもずーっとおズボンはいてたのに、きょうリョウおじちゃんとセックスしたんだよ......。でもね、せっかくホカホカになりかけてたのに、ハルカお姉ちゃんが代わっちゃったの。リョウおじちゃん、困ってた」。「サーちゃんは全部見てたの?」。「うん。だって、すごーくおかしかったんだもの」。あっけらかんと言ってのける。

 そして、こう付け加えた。「
ミナお姉ちゃんと香奈お姉ちゃんは、顔が違うだけじゃなくて、体とか骨の大きさとかも変わるって、リョウおじちゃん、言ってたよ」。サーちゃんはこんなことも言った。「セックスのときには、女の人は濡れるんだよね?」。「そうだよ、体がね、準備するんだよ」。「香奈お姉ちゃんはベトベトで、ミナお姉ちゃんはサラサラなんだって。リョウおじちゃんが、ミナお姉ちゃんにそう言ってたよ」。

 なんのてらいもなく言ってのける
サヤカの大らかさには参った。この会話は、ミナや香奈が中で聞いているに違いない。サーちゃんは、私の胸に顔をうずめ、目を閉じた。

 数分後、
ミナは私の胸で目をあけた。彼女は大いにあせった。私はすぐに体を離し、自分のソファに戻った。ミナはうつむいたまま、私の顔を見ることができないでいる。その恥じらいの表情はとても色っぽかった。やはり今のサーちゃんのおしゃべりを中で聞いていたらしい。

 12時少し前、
ミナは帰っていった。




 「多重人格の女性たち」という題をつけたが、2回に分けて掲載した記録は、井上香奈(仮名)という当時22歳の1人の女性に関するもので、しかも時間にすれば約4時間の出来事である。

 会話の部分も含めると、この中に登場している人格は、年齢の低い順に、
サヤカ(4歳くらい)、ユリ(7歳くらい)、ミナ(21歳)、香奈(基本人格)、ハルカ(20代としかわからない)の5人。わかっているだけで、当時、別に2人の人格がいた。

 前回のブログでも書いたが、僕はかつて20人を超える多重人格の女性たちと交流を持っていた。各々の女性の中には少ない人でも3人、多い人では十数人の人格が存在していた。

 僕が会った女性たちに関していえば、その中には必ず未就学の幼い人格がいて、彼女たちは親からの虐待が乖離のきっかけとなっている。幼い子どもにとって、親は最大の味方であり、だれよりも愛してもらいたい相手だ。だが、その親から虐待されてしまう子どもは、悩み、傷つき、苦しむ。本来なら、親に助けを求めるが、この場合、すがる相手がどこにも存在しない。人生経験や知識を持った大人でさえ頭を抱えるような苦境で、幼い子どもに何ができるというのだろう。親が変わらないかぎり、子どもは救われない。

 最近、児童虐待のニュースがまた増えてきている。なので、古い資料の山をひっくり返して、名前を仮名にし、いくつか筆者注を付ける以外はそのまま掲載した。多少なりとも前後の説明を入れようとすると、さらに説明の説明が必要になり、分量がどんどん増えていってしまうので、1日分だけにとどめた。わかりづらい部分も多かったに違いない。

 最後に1つだけ申し上げておきたいことがある。親からの虐待によって乖離してしまった、何人もの幼い人格と僕は話をしてきたわけだが、この人格はみんな天使のような存在だった。ということは、だれの中にもこの天使がいるということであり(もちろん虐待している親の中にも)、虐待とは、たとえ命を奪わなかったとしても、人の中で最も純真無垢な部分を、ある意味、殺してしまう行為だということである。


 (「週刊代々木忠」は2週間、夏休みをいただきます。次みなさんにお目にかかるのは9月3日(金)になります)

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

第84回 多重人格の女性たち(1)


 かつて僕は解離性同一性障害、いわゆる多重人格の女性たちと交流を持っていた時期があった。ふり返ればその女性たちの数は20人以上に及び、同時期に8人とやりとりしていたこともあった。

 彼女たちとは直接会ったり、電話で話したり、ファックスや手紙など、コミュニケーションの方法はいくつもあったが、特に電話などの場合、複数の女性の中に複数の人格がいて、さらに人格は途中から増えていったりするものだから、僕のほうでは誰が誰だか混乱しそうになるときがあった。

 きのう電話してきた人格をつい間違えて話していると、相手は傷つき、落ち込んでしまう。このままではダメだと思った僕は、その日、誰と会って(あるいは電話で)どの人格と何を話したかを、テープに録音し書き起こしておくことにした。人数が人数だけにその記録は膨大な量に及ぶが、今回はその中からごく一部をここに掲載しようと思う。なお、名前を仮名にするなど、個人が特定できない配慮をするという条件で、ご本人の承諾はいただいている。




 1998年6月10日(水)PM7:45~PM11:50 井上香奈(仮名)来社

 きのうの電話では、午後5時に来社の約束だった。ミナ(仮名)(筆者注:香奈の中の人格)は6時を過ぎても現われない。「人格の交代が起きたのか...」。そんなことを考えながら、ワープロに向かって盛岡の山内恵美(仮名)の中のチューミク(仮名)との会話録音のテープ起こしを始めた。

 「井上さんという方から電話でーす」。
ミナからだった。アテナ着が午後7時半頃になるという。結局、ミナがアテナに着いたのは7時45分だった。ミナとは初対面だ。スーツ姿の真面目そのものといった女性が入り口に立っていた。挨拶を交わす。無表情に近い。笑顔はない。

 奥のスタジオに通す。会話が弾まない。
ミナは「香奈が監督宛に書いた手紙です」と言って、一枚の用紙をテーブルの上に置いた。手紙に目を通す私を、ミナはずっと観察している。いつもそうだが、初対面の交代人格者が私の内面を探ろうとするときのこの視線には、感情を乱される。

 ☆手紙の内容については、手元にあるのであえてここには詳しく記さないが、殿(筆者注:香奈が好きな相手のニックネーム)が感じている、
ハルカ(仮名)(筆者注:香奈の中の人格)の内面についての感想は、的を射ているという感想をもった。

 香奈からの手紙を読み終えた後も、
ミナは私の内面を探りつづけた。今までの体験を通して言えることだが、いわゆる《中》にいる時間が多い彼女たちは、その内的世界においては会話以外の何かでコミュニケーションをとっている。表の世界においても、他人の内面と同調したり、相手の心の状態を感じ取ったり、読み取ったりすることが多々ある。いつもそうだが、彼女たちと話すとき、私は超能力者を前にしているような気分になる。

 私は一度無になった。お店に行く途中の香奈が川のほとりにたたずんで動かなくなったとき、
ミナが代わって表に出た。昨日の電話でミナはそう言った。私はそのときの状況をもう少し詳しく知りたいと思い、ミナにそのことを訊いてみた。

 「あのとき香奈は川面を見つめ、『この川の深さはどれくらいなんだろう?』、そんなことを考えはじめたんです」。香奈の思いから何か不吉なものを感じ取ったとき、
ミナは咄嗟に表に出ていたと言う。「それに、バッグの中に薬がたくさん入ってるんですよ。ごく最近買ったんだと思います」。

 ミナはそう言って、再度カバンの中からワープロの文字で埋められた10ページほどの用紙を差し出し、「香奈が本にするつもりで綴ったものです。その一部です」。そこには、数年前に香奈の身に起きたレイプ事件と、死を見つめる彼女の内面が、私小説風に綴られていた。

 《ナイフを突きつけられ、犯された》。香奈は警察でそう供述している。香奈が犯されたことは事実だった。しかし《ナイフを突きつけられ》は香奈の創作だったことが、なぜか後半で語られている。そして、死は見事なまでに美化されていた。文章から香奈の死への恐怖感はまったく感じ取れない。本人もそのことを明確にここでは言っている。色とりどりの花に埋もれて死を迎える女。少女マンガか劇画の世界がそこには展開されている。私にはそう映った。見方によっては、死後の世界に希望を託しているようにも受け取れる。

 読み終わった私に、
ミナは感想を求めた。私は内容にふれることをさけた。「......なんか少し寂しい」と答えた。本当にそう思ったからだ。ミナは、私の内面の感情の動きを必死で追っている。何を感じ取ったのだろうか、ミナの表情がなごんだ。

 
ミナは徐々に多弁になっていった。中のファミリーのこと。殿と香奈と店長の関係。あの日以来、香奈とはまったく連絡が取れないと言う。香奈がこのまま表に出てくれなくなったときの生活への不安を訴えた。「私にはヘルスの仕事はできない......。私にできる事務系の仕事はないでしょうか」。このとき初めて感情らしきものが言葉にこもった。

 「もう少し様子を見てみようよ。香奈さん、きっと戻ってくるよ。本のほうも今月中に仕上げるんでしょう?」。「そうですね」。そう言ったまま、
ミナは黙り込んだ。私は言葉を待った。

 「約束の時間に遅れてしまった理由をお話ししなければいけませんよね」。そう言ったまま、
ミナはうつむいた。恥じらいの表情を見せた。初めての感情表現だ。「......きょう、店長と関係したんです。私はずっとジーンズはいていたんです。夜寝るときも......。きょう、ここに来る前に......なぜかしてしまったんです」。私は「よかったじゃない」と素直に言った。なぜなら、ミナはレイプ体験を請け負った人格だと聞いていたからだ。

 しかし、約束の時間に遅れた理由は他にあった。SEXの途中から
ハルカに代わられてしまったと言う。ハルカと交代できたときは、すでに約束の時間をとうに過ぎていたと、ミナは弁解した。ミナの口ぶりから察するに、彼女は店長が気に入ったようだ。「香奈よりも私のほうがリョウさん(店長)との相性はいいのかもしれません」とも言った。

 2時間が過ぎようとする頃、
ミナは「香奈を近くに感じる!」と言い出した。私は、香奈に代わってくれるように頼んでみた。ミナは黙って目を閉じた。ミナの表情が苦しそうに変化した。苦悶の表情は数分続いた。そのときすでに香奈に代わっていたことに私は気がつかなかった。

 コーヒーをすすめた。時間とともに表情がやわらいでいった。そして、いつもの社交的な香奈に戻った。「お久しぶりです」。あらためて挨拶を交わす。香奈は、殿と店長のはざまで揺れる心の内をポツリポツリと語り出した。自分が《中》に入ったことを一種の逃げだと言って、自らを責めた。

 ということは、川での出来事は
ミナと入れ替わるための芝居だったのだろうか。バッグの中の薬も計算のうちだったのだろうか。それとも、死をためらっている最中にあったのか......。香奈の私小説を読んだ直後の私の内面でいろんな思考が交錯する。

 香奈は語り続けた。やさしい《殿》にひかれ、仕事をしない《殿》にいらだちを感じる日々。そして香奈は自分の感情をコントロールできなくなった。それから自分の気持ちをうまく《殿》に伝えられないまま、家を出た。しばらく1人になりたいと思ったと言う。今まで勤めていた店も替わった。新しい職場での店長との出会い。そして同棲。

 今は店長が必要。「でも、生涯をともにできる人は殿なんです」と言い切る香奈。そう言う香奈の言葉と表情から、女の身勝手とは言い切れないものを私は感じた。私は、薬の件、川での出来事について、今の香奈にはふれないほうがいいと判断した。私は、香奈が中に入ったことで、表の世界に慣れていない
ミナが困っていることを伝えた。仕事のときだけでも香奈が表に出るというのはどうかと提案するが、拒否された。ヘルスの仕事は楽しいが、当分は表には出たくないと言う。

 私はこう言ってみた。「
ミナの不安が続くと、中の者たちにも影響を与えるよ」「............」「あなたがどうしても表に出たくないというのなら、中からミナとコミュニケーションをしっかりとるようにしたほうがいいな」。香奈は黙ってうなずいた。

 来月のビデオの仕事はどうするのかと訊くと、そのときは自分が表に出ると言う。しかし、一番ビデオをやりたがっているのは
ハルカだと言う。ハルカの存在は聞いていたが、まだ会ったことがない。もし本当にハルカもビデオに出演するのであれば、私は監督として一度会っておきたいと思った。

 
ハルカに代わってもらうことにした。香奈は黙って目を閉じた。数分後、ハルカが出た。眼光が鋭い。典型的なツッパリの眼をしている。私も目線を外さなかった。それは数分続いた。

 ハルカは私を見据えたまま、香奈が吸っていたテーブルの上のマイルドセブンを手に取った。そして、また元の位置に投げた。バッグからマルボロを取り出し、おもむろに火をつけた。煙は私のほうに向かって吐き出された。意識的にそうしたことは明らかだ。私の反応をうかがう挑発的なハルカの表情からも、それがわかる。

 無言が続く。

 私の中の不良性がよみがえる。私は口火を切った。「
ハルカかい?」。私はあえて"さん付け"をしなかった。返事はない。だが、決して目線は外さない。ハルカ はふたたびタバコの煙を私の顔にむけて静かに吐いた。

 こいつが男だったら、俺の蹴りがみぞおちか顎に決まってるよな......そんなことを考えながら、私は新しいコーヒーを淹れにいったん席を外した。


(つづく)

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

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