週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第214回 セックスしないAV男優
AV男優が現場でセックスしなかったら、彼の価値ってどこにあるだろう? 中折れでさえ一応途中まではするわけだが、最初から最後まで一切しないとしたら……。そんなのはAV男優じゃないと言うだろうか。キャスティングする意味がないと。
ところが、そんなことはない。それが市原克也である。いま彼は「ザ・面接」に出てもセックスをしない。にもかかわらず、なくてはならない存在なのだ。しかも、現役男優のなかでは最もつきあいが長い。市原の魅力をひと言でいえば「存在感」である。
強い個性、ボキャブラリー、頭の回転の速さ……どれをとっても僕は勝てない。半分ジョークで言いたいことを言ってのける。たとえば「これを言ったら顰蹙(ひんしゅく)買うよなぁ」と僕らならちょっと考えてしまうけれど、彼にはそれがない。嫌われようが言ってしまう。それがまたすごいなぁと僕は思うのである。
KYは過去の流行語だが、いまなお多くの人たちが空気を読もうとしている。空気を読むとはいいながら、結局は相手に気をつかって遠慮しているだけだ。「引かれるんじゃないか」「嫌われるんじゃないか」と、いい子を演じている。それらはすべて頭で考えたことである。対して市原は、直感で場を読み、瞬時に言葉にしている。それは「空気を読む」というより、自らが「空気を作り出している」といったほうが相応しい。
では、なぜ市原にはそれができるのだろう? ひとつには、彼の言葉が関西弁であるということ。そしてもうひとつは、自己への信頼だろう。
市原本人はそれを意識していないかもしれないが、彼はいつも本当の自分というものを出して人と接しているように見える。自信のない人間にはなかなかこれができない。
彼が幼い頃どんな環境で育ったのかを聞いてはいないけれど、親が「こういうふうに生きなさい」とレールを敷いて、それに沿って生きてきた人間ではないと思う。自分の意思で生きれば、摩擦や衝突を経験したはずだし、ひょっとしたらケガもしただろうが、幼児期からの彼がそのまま育って大人になったというふうに見えるのだ。
彼は高学歴だが、手に入れた豊富な知識に自分が使われることなく、知識を使うほうにまわった。知識を使うか・知識に使われるか――その違いは「体験」を伴ったかどうかで決まると僕は思う。自ら行動することなく頭の中だけのシミュレーションを重ねていけば、いつしか「かくあるべし」をいくつもぶら下げた概念思考人間になってゆく。
人は「思考ベース」「感情ベース」「本能ベース」という3つのタイプに分けられるが、市原は「感情ベース」だ。「感情ベース」の人間の言葉には、良くも悪くも感情がこもってしまう。だからこそ人間臭いし、本当の自分が出ているし、圧倒的な存在感を放っている。そのうえ、「知性」「感性」「本性」と意識階梯も高いレベルにある稀有な男なのである。
2013-04-26(00:00) :
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第213回 開き直る女たち
先日「ザ・面接VOL.133」を撮影した。面接に来た3人の子の職業は順に、銀行員、グランドホステス(航空会社の地上職)、薬剤師。べつに職業で選んだわけではないが、就職難の今、いずれも人が羨むような仕事である。なぜこういう仕事に就いた女性たちが、わざわざリスクを犯してまでアダルトビデオの門をたたくのだろうか?
在英ジャーナリストの木村正人さんがサイト「木村正人のロンドンでつぶやいたろう(2013年3月3日付)」に「貧しくなる資本主義 アマゾンの人間オートメーション」というコラムを掲載している。アマゾン配送センターをルポした英紙フィナンシャル・タイムズの記事がわかりやすく解説されているので、その一部を紹介させていただく。
〈米映画ターミネーターは、人工知能スカイネットや殺人ロボット・ターミネーターの支配に抵抗する人間の近未来を描いた。アマゾンの配送センターでは、サトナブ(衛星測位システム)の携帯端末を持たされた労働者がコンピューターの指示通りに働いている。
(中略)
サッカー場を9つ合わせた広大なアマゾンの配送センターでは、オレンジ色のベストを着た数百人の労働者がせわしなく歩き回る。サトナブが本を棚から集める最も効率の良いコースを表示する。もたもたしていると、「急げ」のシグナルが送られてくる。
(中略)
本を集める係の人はサトナブ片手に手押し車を押して、1日8時間、コンピューターの指示通り倉庫の中を歩き回る。昼休みは30分。歩行距離は1日11~24キロ。配送センターから出る時は何も盗んでいないかをチェックする探知機を通らなければならない。
アマゾンは最近、ロボットメーカーを買収した。アマゾンのマネージャーは記事の中で、配送センターで働く労働者について「あなた方は人間の姿をしたロボットのようなものだ」「人間オートメーションと表現しても良いかもしれない」とつぶやいている〉
ここに書かれているアマゾンの配送センターは日本ではなく、イギリスの話だ。けれども、自分の個性や人間性を殺してでも、与えられたノルマをこなさなければならないのは、日本の銀行も航空会社も病院も同じなのかもしれない。とはいえ、読者のなかには「だからと言って、AVに出ることはないだろう」と思う人もいるはずである。
彼女たちがアダルトビデオに出る理由を探っていくと、その根底にあるのは「快」が欲しいからではないかと僕は思う。たとえば性器をはじめとする性感帯を愛撫される気持ちよさはもちろん「快」だが、相手がよがる姿を見たり聞いたりするのもまた「快」である。性欲ばかりでなく食欲にしても、何かを食べたり飲んだりして「おいしい!」と感じるのは「快」だ。
計画出産などの例外を除けば、人は子孫繁栄のためにセックスするわけではなく、生命維持のために食事をとるわけでもない。結果的にはそれにつながるとしても、当の本人は目の前にある「快」を得たいがためにそれをする。言い方を換えれば「快」を求めるからこそ生きられるのである。
それは仕事においても同様なはずで、本来、労働の歓びが「快」だったはずだが、配送センターでコンピュータの指示どおりに歩きつづけることが「快」だろうか。銀行や航空会社や病院で自分の心にフタをして、上司の顔色をうかがいながら与えられた業務を黙々とこなすことが、果たして「快」なのだろうか。
つまり、個人が「快」を求めたりしようものなら成立しない職場環境が目の前に横たわっている。だが、たとえ思考で押さえ込んでも、本能はつねに「快」を求めつづける。それが「もうロボットじゃ耐えられない」と思った女性たちの背中を押すのだ。
日本においてはまだまだ男性社会であり、男が重用されている。それだけに社会や組織に縛られる。一方、女のほうは、動きやすい立ち位置にいる人が多いし、そもそもミラーニューロンが発達しているから直感力も男の比ではない。柔軟性があると同時に、男のようにともすれば夢ばかり追うのではなく、しっかり計算もできる。
しかも「ザ・面接」の2000年代の作品を見返していたら、こんなシーンがあった。エキストラとして出演した女の子の会話である。
「私、アメリカに行ってたんですよ、8年間。3年前にアメリカから帰ってきたんですけど、日本の女性、すごく変わってたからビックリして……」(どう変わったのかと訊くと)「開き直り? それをプラスにしていると言うか……。それでいいんだって感じになってる。私(アメリカに)行く前まではそんなことなかったから。女でいることがすごく楽しくなったって感じ」
彼女がアメリカに行っていたのは、1990年代。毎日見ていたら気づかなくとも、彼女には8年のギャップが見えたのである。プラスに開き直った女たち。すでに20年前から変化は始まっていたということだろう。
男たちよ、早いとこ、自分らしく生きたほうがいいぜ。
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2013-04-19(00:00) :
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第212回 静かな老後
昨年の秋も深まった頃、札幌で暮らす女房の母親が亡くなった。米寿(88歳)を目前にしてのことだった。夫に先立たれてから一人暮らしだった母は自分の死期を悟っていたようで、身辺整理もきっちり済ませていた。
亡くなる前々日に「夕張の紅葉が見たい」と言い出し、女房の弟がクルマで連れていった。晩年、医者通いにも利便な札幌に越してくるまで、母はずっと夕張で暮らしてきた。だから、故郷の紅葉を最後に見ておきたかったのだろう。
具合が悪くなり、緊急入院してからほぼ一昼夜で息を引き取った。亡くなった直接の原因は肺炎だが、医者の診断ではすでに体のあちこちが悪くなっていたという。何度か吐血もしていたらしい。でも、母は決して言わなかった。
一人暮らしとは書いたが、母と同じマンションの向かいの部屋には、心配で女房の弟が引っ越してきていた。亡くなったとき、「ここまでひどかったとは見抜けなかった」と弟は泣き崩れた。その思いは彼だけでなく、家族のだれもが「つらかったのなら言ってほしかった」という気持ちをどこかに持っていた。
けれども、母は最期まで自分の生き方を全うしたのだと思う。病院で家族が付き添ったのは一晩だけである。だれにも迷惑をかけることなく、それでいて子どもたちが最後の別れをする時間だけは残している。残された子どもは、口々に「お母さんは見事だった」とつぶやいた。まさに見事な人生の幕引きであり、僕もああいうふうに死ねたらいいなぁと思った。
その僕は先月で75歳になった。74との違いは自分としては何もないものの、制度的には75から「後期高齢者」ということで、たとえば健康保険証もこれまでのコンパクトなカードタイプから倍以上の大きさの紙製に変わった。それにともない女房は扶養家族と認められなくなり、新たに国民健康保険に加入した。
これまでと同じように働き、同じように税金を納めているこっちとしては「なんで?」という思いもないわけではないが、高齢化社会ゆえ医療費もどこかで線引きをしなければいけないということだろう。いずれにせよ、75という年齢は自覚ではなく、こういうところから否が応でも認識させられることになる。
娘が二人とも嫁いだので、今は女房と二人暮らしである。結婚したときは二人で生活を始めるものの、子どもが生まれれば、生活はおのずと子ども中心になってゆく。夫婦の話題も子どものことがそのほとんどを占める。そして、子どもの手が放れたとき、夫婦にはまた二人の時間が戻ってくる。でも、新婚当時とはいろんなところが違っている。自分も、女房も。だから、夫婦関係をもう一度お互いがとらえ直す必要が待っているのだ。
僕はいま女房と差し向かいで食事をするのが楽しい。お互いに花や植木が好きという趣味の話もそうだが、むかし同じ仕事をしていたから共通の思い出がいろいろある。この歳になってみると、それらはとても大事でありがたいことに思える。僕はたくさん浮気をしてきたけれど、残された人生を女房と一緒に過ごせる意味を静かに心に描く……。
と思ったら、一昨年嫁いだ下の娘が「マンションの頭金が貯まるまで、一緒に住んでもいい?」と言ってきた。向こうの家に入っているわけではないが、夫は一人息子だ。「向こうのご両親に訊いてからにしなさい」と言ったら、「義母さん、『ラッキーじゃない。若いときに貯めといたほうがいいよ!』って」。
一方、夫の転勤で北海道に行っている上の娘も、来春には二人の孫の小学校入学と幼稚園入園に合わせて東京に帰ってくる。夫の仕事はまだ1年か2年北海道の可能性もあるが、東京に戻るのはすでに決まっているので、夫婦でそう決めたという。こちらは同居するわけではないけれど、家から近いマンションである。
どうやら静かな老後は、まだまだ先になりそうだ。でも、娘たちには言っていないが、ふたたび娘や孫とともに日常を過ごせることは、思いがけないプレゼントをもらったような気分なのだ。娘はいくつになっても娘であり、僕は歳を重ねるにしたがい、限りあるからこそ、家族とのふれあいがいっそう味わい深く感じられるようになってきたのである。
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第211回 僕がギャンブルをしない訳
事務所のすぐそばにJRAのWINS(場外馬券場)があるけれど、一度も買ったことはない。九州の生家の目と鼻の先には小倉競馬場があった。小学生の頃からアルバイトで競馬新聞を売りさばき、中学生になると予想屋も何度かやった。同級生の父親が調教師をしていた関係で情報は手に入ったし、予想もそれなりに当たった。そういう意味で、競馬は僕にとって身近な存在だった。
にもかかわらず、競馬をしないのには身近ゆえの教訓もある。家の隣がお寺だったが、競馬のある日に境内で首をくくる者が後を絶たなかった。その現場を小学生のときに一度見たことがある。その人は枝ぶりのいい高いところからぶら下がっているのではなく、低い枝に首だけかけて腹這いのような姿勢で事切れていた。こんな格好でも人は死ねるんだと思った。と同時に、競馬に負けたらこんなふうになっちゃうんだとも、子どもながらに思ったのである。
20代の前半、興行をしていた頃だが、神戸で花札をしたことがあった。ちょうどストリップの集金に行ったついでだった。ついでのつもりが、結果的には3日3晩ろくに寝ないで興じることになる。だれも降りない。集金したカネは、あっと言う間になくなった。手元になくなれば「いくら回して」とツケがきく。
負ければ負けるほど、どうにかして取り戻そうと深みにハマり、借りはどんどん増えていった。結局、僕は800万円近く負けた。僕以外はシャブを打ちつつだから冴えわたっており、冷静に考えたら勝てるはずがないのだが……。このときの借金は1年近くかけて返した。もう賭け事はやめようと思った。さすがに懲(こ)りたのである。
その後にやったのは麻雀くらいだ。だが、これもかつて経営していたプロダクションに愛染が入ってきた頃やめた。麻雀はいったん始めると長いし、途中1人だけ抜けられないというのもあり、すでに入っていた予定や約束も変更せざるを得なくなる。そしてなにより不健康だ。じっと座ったままだし、寝ないで続けるし、カリカリくるし、タバコの本数は増えるし……。まずいなぁーとは、ずっと思っていた。ところが、映画づくりのほうが面白くなって、気がつくとやめていた。
自分が今やらないからといって、ギャンブルを否定するつもりはない。あの高揚感は人を魅了する。たとえば月曜から金曜まで働いて、土日に趣味としてたしなむぶんにはストレス解消にもなるだろう。そうやって無理のない範囲で楽しんでいる人たちはたくさんいる。
しかし、現在ギャンブル依存症で苦しんでいる人も、最初はそうやって始めたはずである。無理のない範囲内と範囲外――その境界線を本人が自覚するのは難しいのかもしれない。ついでのつもりで始めて800万負けた、当時の僕のように。依存症になる人とならない人、いったい違いはどこにあるのだろうか?
依存してしまう人の根っこには、いまだ中和されていない過去の何かが残っているように僕には見える。過去の何かとは、たとえば幼少期に負った心の傷だったり、孤独感や寂寥感だったり、欠落感だったり……。それらを日頃から意識している人もいれば、意識下に閉じ込めている人もいる。だが、いずれにしてもギャンブルに熱中しているときには解放され、代わりに高揚感で満たされる。
本能は快を求める。もともとそういうふうにできているわけだから、ギャンブルが快のすべてになっている人にとって、その弊害をいくらわかりやすく説いたところで、やめるのは難しいというか、無理なんじゃないだろうか。
自分の根っこにあるものを中和しなければ、その渇望はいつまでも消えない。けれども、依存症になった自分を責める必要はない。根っこに気づき、癒すためには、それも必要だったのだと肯定的にとらえてみるのがいい。そうすれば、ギャンブルに代わる何かがきっと現われる。気づきが起きれば、人は次のステージへ進めるのである。
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