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第13回 男が気持ちよくなる方法

 「なかなかスケジュールが取れないんですよ」と助監督もボヤくほどの売れっ子男優、〈森林原人〉と〈鈴木一徹〉を、今回はまな板にのせてみよう。ふたりには申し訳ないが、これも有名税だと思って許していただきたい。

 森林原人は、どちらかといえばブサイクである。それにひきかえ、最近、面接軍団の一員になった鈴木一徹はイケメンだ。29歳という同い年ながら、彼らふたりはその容姿のみならず、さまざまな面で対照的である。

 それは、自然発生的に栄えた田舎の漁師町と、人工的だがオシャレなお台場くらいの違いがある。

 森林は本能的で、一徹は理知的。森林は思ったまま・感じたままを口にし、一徹はいったん頭を通して話しているように見える。たとえば、森林は「セックスがいっぱいできるのでAV男優になった」と、こともなげに言う。一徹がAV男優を選んだ理由はまだ聞いていないが、きっと違うことを言うだろう。

 森林には感性の豊かさを感じる。実際、彼のセックスは撮っていて心地よい。一方、一徹のセックスは撮っていて疲れてしまう。ふたりは、セックスのときに使っているエネルギーの流れがまるで違うのである。

 森林は実に多面的で、相手によってまったく異なる反応を見せたりもする。一徹は、相手が代わっても自分の型をあまり崩さない。

 一徹は「ザ・面接」シリーズのセックスで2度中折れし、「回春エロエステ」でも2度中断した。森林はエステティシャンの柏木みなにズボンを脱がされたとき、すでに勃起していた。

 ファインダーをのぞいていて感じるのだが、一徹は女性とトータルに向き合っていない。相手に余分な気をつかい、カメラ・アングルや監督の顔色を気にしている。これは「自分がどう見られているのだろう?」ということの裏返しである。

 体位を変えたほうがいいのかな? ここで射精しちゃってもいいのかな?

 そんなことを考えていたら、女を悦ばせるエネルギーなど、残っているはずがない。途中で射精を抑えたり、いいところを見せようなんて考えはやめて、感情を込め、相手の目を見つめ、セックスに没頭してくれたら、僕も撮っていて心地よくなれると思うのだが......。おーい、一徹、聞いてるかい?

 概念思考にとらわれてセックスしているかぎり、本当の悦びは得られないし、それどころか女は醒めてゆく。

 男優の大御所・日比野達郎は「性感Xテクニック」シリーズで、素人の女性にフェラチオされ、よがりまくって射精した。そのとき、その女性も一緒にイッてしまった。しかも彼女は失神したまま、しばらくの間、至福の世界から帰ってはこなかった。

 セックスのとき、男が本能にすべてを明け渡すと、こんなことが起こりうる。僕は、一徹のそんな瞬間をいつか撮ってみたいと思う。



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森林原人                   鈴木一徹

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

第12回 欲望における反作用の法則

 欲張り、欲得、欲深い、私利私欲......。こう並べると、欲というのは、どこか否定的なニュアンスを含んでいる。物欲、色欲、名誉欲といった欲の具体的な例も、あまり人前でおおっぴらに言わないほうがいいように思える。

 人間の欲を、恥ずかしいもの、人に見せたらいけないものとして、僕たちは教育されてきた。もっと理性的でなければいけないと。

 「女が淫らになるテープ(20)恋に破れた女たち 悶え乱れて愛になれ」という作品には、僕の娘ふたりの共通の知人が出演していることもあり、今も印象に残っている。

 この作品では、失恋直後の3人の女性たちの、別れの経緯から原因を探り、その原因が実は自分にあることを気づかせるという、少々思い上がった切り口で僕は臨んだ。

 彼女たち3人に共通しているのは、セックスでイッた経験がない。セックスのときに「好き」や「愛している」という言葉を言ったことがない。相手に本当の自分を見せていない。快楽的なセックスをどこかで軽蔑している......。

 これでは別れが来ないほうがおかしいと僕は思った。以前、ある雑誌で、脳生理学者の大木幸介先生と対談した際、先生は「快楽というと、はばかられがちだが、生きることの根本に欲望、そして快感がある」とおっしゃっていた。人間の脳は、そもそもそういうふうにできているのだと。

 作品の中で、3人の女性には催淫テープを聴いてもらった。テープによってトランス状態に入った彼女たちには、今までつくろってきた自分の姿が次第に透けて見えてくる。そして、快楽に貪欲な自分自身を発見する。


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 そんな自分をも偏見なく受け入れられれば、怒りや嫉妬に自分を占領されてしまうこともなくなる。いや、もう少し丁寧に言うなら、怒りや嫉妬は起きるが、そういった感情を感じている、もうひとつの意識が動き出す。理性が戻ってくるのである。

 理性的であれと思うがあまり、本来あるはずの欲望をまるでないかのごとく振る舞うのは、僕は逆効果でしかないと思っている。物欲にしても色欲にしても、そこに自責の念や嫌悪感といった否定的なニュアンスを自らが与えてしまうと、ずっとそこから逃れられないはめになる。

 自分の中に闘いを作るのではなく、自分の欲望を認めてあげる。欲深い自分も許してあげる。そして状況が許せば、とことん欲望に忠実に生きてみる。そうすれば、結果的にその欲望から卒業していくことができるだろう。そうして人は初めて次のステージに行けるのではないかと思う。

 「物欲、色欲、名誉欲、欲のおかげで、きょうもイキイキ」---------- 僕はいつも自分にそう言い聞かせている。

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

第11回 正直に生きる?

 いま日本では完全失業者が270万人もいるという。完全失業者とは、働く意思と能力がありながら職に就けない人たちをいうから、ニートを加えれば、実際に働いていない人数はもっとふくれ上がる。

 さらには、名だたる大手企業がそれぞれ何千何万という大規模な人員削減をこれから実施すれば、失業者の数はますます増えてゆく。そういう社会の流れは、もちろん僕の現場にも押し寄せている。

 今月リリースされる作品に「ザ・面接VOL.107 セックス好きですが...何か? 看護師 人妻 お姉さん」がある。これは昨年の12月に撮影した。

 出演者の一人、塚本みづきは結婚6年目の28歳になる専業主婦。4歳の一人娘がいる。ファミレスの店長をしている夫のボーナスもこの年末はない。「今みんな外食しないみたいですよ」と彼女は言う。主な出演動機として「主人の仕事もいつ何が起こるかわからないし、家計を助けたい」と。夫には、もちろん内緒のビデオ出演である。

 塚本みづきは、以前にアルバイトを1年半ほどしていた。そこで得たお金は、子どもの養育費と生活費にあてた。そんな彼女の家庭も、年の瀬を越せないという深刻な理由からAV出演となった。

 作品の中で、塚本は子どもを育てる大変さを、経済的負担も含めて語っている。だから「もう一人子どもを欲しがっている夫には内緒でピルを飲んでいる」と。これで子どもができるかも......とセックスしている夫と、子どもなどできっこないことを知りながらセックスをしている妻。

 結婚後、彼女は一度も浮気したことはないと言った。ビデオ出演は、彼女にとって仕事であり、浮気ではないというわけだ。

 面接開始とともにソファの真ん中に彼女がすわり、その両側に彼女をはさむ形で男優二人がすわる。向かって右に吉村卓、左に佐川銀次。面接で話を聞きながらも、卓が彼女の足の指を口に含み、舐めはじめる。銀次が彼女の手の指をしゃぶる。二人で彼女を股を一気に広げると、もうパンティが濡れていた。「汗かシミかわからないから」と銀次が股間を嗅ぐ。卓はソファの後ろに回り、彼女の胸を揉みしだき、乳首を舌先でころがす。銀次はパンティをずらして、アソコをいじり始める。


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 最初は「きょうはやると思わなかったし、面接だって聞いたから......」と言っていた彼女も、たまらなくなって卓のおちんちんにむしゃぶりつき、あっと言う間に根元までくわえ込んでいる。

 家が狭くて、一緒に寝ている4歳の娘が起きないように、セックスでも気をつけていると言っていた彼女。ビデオに出るのは、家計を助けるための仕事だと割り切ったはずの彼女。だが、考える余裕も与えぬ速攻で、男優二人から女の部分に火をつけられてからは、夫のことも娘のことも忘れて、本能のおもむくままのセックスに没頭していった。

 1月1日のブログに書いた、接客業を転々としている女性(井沢景子)も、この作品に審査員として出演している。前日、「オマンコ、舐めて」のひと言がいえなかった33歳の彼女である。

 審査員の井沢も、目の前でくり広げられる生々しいオスとメスの営みを次々に見せつけられ、股間を濡らしていた。撮影も終盤に差しかかった頃、彼女はついに男優の片山邦生にアプローチをかけた。

 ずっと優柔不断で他力依存だった井沢も、欲情する自分に素直に反応し行動したのだ。自分からセックスしたいという意思を異性に示したのは、彼女の人生において、おそらく初めての出来事だったに違いない。

 撮影の最後に、メスと化してセックスを堪能した主婦の塚本に「ダンナさんに何か言うことあるでしょ?」と訊いたら、「正直に生きてしまいました」と答えた。そして保育園にあずけている娘を迎えに行くと言って、撮影現場をあとにした。

 きっと彼女は無事に年を越せたはずだが、生活の大変さは何一つ変わっていないのかもしれない。

 でも、たとえそうだとしても、人は自分に正直に生きるしかない。

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

第10回 ビデ倫の崩壊

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 アダルトビデオを見る人なら、「ビデ倫」(日本ビデオ倫理協会)の名はよくご存じだろう。このビデ倫が一昨年、モザイク処理の薄いDVDの販売を幇助(ほうじょ)した容疑で、警視庁から摘発を受けたのはご存じだろうか。

 僕がアダルトビデオを始めた頃、ビデ倫は映倫(映倫管理委員会)の片隅に机を一つ置いて、映倫の先生で手があいている人がビデオの審査もしていた。当時の先生方、つまり審査員たちはよく勉強もされていた。

 たとえば、出版物の性表現を解放したときに西ドイツで性犯罪がどのくらい減ったとか、それと比較して、解放していない東ドイツでは性犯罪の発生件数が西ドイツを上回るとか......。このような勉強に加えて、なにより審査員たちは映画を見る目を持っていた。

 ところが、時がたつにつれ、そんな先生方も体調を崩されたりして、退職されていった。すると、ビデ倫の理事を務める一部のビデオメーカーが、ビデ倫に対して横車を押すというか、どんどん圧力をかけてきた。要するに審査基準を甘くしろと言うわけだ。圧力をかけられたビデ倫も、すんなりそれを聞き入れてしまい、基準がどんどん緩和されてゆく。

 そうかと思うと、人権擁護の団体やフェミニストと言われる人たちがクレームをつけに乗り込んでくれば、また審査基準が変わる。要するに場当たり的で、主体性というものがまったくない。

 しかも、ビデ倫は自主規制機関のはずだが、途中から警察の天下り先にもなっていった。ビデ倫の理事長が警視庁に天下りのお願いに行ったら、それを手配する人事部のような部署があって、天下り先がリストになっていたという話も聞く。

 あまりにひどいので、しがらみや癒着がなく、公正で独立した判断ができる立法府のようなものを作ってくれと、僕は何度もビデ倫に文句を言った。しょっちゅう僕がクレームをつけるので、ビデ倫のある事務局長とは親しくなったくらいだ。

 あるとき、その事務局長がこんなことを僕に言った。「実は審査員が、もう私の言うことを聞かないんだ......理事会社の顔色だけをうかがっている」。審査員はその多くが理事会社、つまりビデオメーカーから就職を斡旋してもらっている。なかには映像に携わった経験がない人すらいる。

 ビデ倫では毎日午前中に審査員全員が集まって、前日の反省会と今後の審査をどうしていくかといったミーティングがあるらしいのだが、事務局長いわく「そこにも、もう審査員が出てこなくなった」と。

 それから数年後、「消し」が極端に薄くなった。びっくりした僕は、うちはうちで自主規制しようということにした。なぜなら、もし「消し」の薄さで競争したら、行き着くところは裏ビデオになってしまうし、見えるというだけで競うのなら、だれが撮っても変わらない。そうじゃないところで、見てくれる人をどう惹きつけるかで勝負していこうと。そうじゃなきゃ、あまりに寂しすぎる。僕はそう思ったのだ。そして、このままだとビデ倫はやられるなぁと。

 案の定、警察の摘発を受けたとき、僕はビデ倫の理事長に「話がしたい」と申し入れ、ビデ倫の顧問弁護士の事務所で会うことになった。

 理事長に僕は言った。「今回、突っ張ったら裁判に負けます。これは起こるべくして起こったし、実際に猥褻(わいせつ)が売りだとパッケージ全面に謳っているわけでしょう。だから、ビデ倫が新基準に移行するときにミスがあったと認めたほうがいいです。判断基準が統一できなくて混乱が起きてしまったと。今回はミスを認めて謝るほうが、ビデ倫の権威は保てるんじゃないですか」

 同席した顧問弁護士にも「先生のほうも、そういうことでお願いします」と言ったら、「わかった。落としどころを考えましょう」ということになり、その日の話し合いは終わったのだった。

 数日後に、ビデ倫が記者会見を開いた。その席上で理事長は「これは表現の自由だ!」と言うではないか。はっきり言って、僕は全身から力が抜けた。なんだ、そりゃ。

 で、結局、ビデ倫は解体である。顧問弁護士も、「ロマンポルノ裁判で無罪を勝ち取った男なので、ぜひとも話を聞きたい」と言ってくれて会ったのだから、僕の提案も少しくらいは参考にしてくれると思ったのだが......。

 連絡もないから、あの数日間にビデ倫の内部で何が起きたのか、いまだに僕にはわからない。いま僕は日本映像倫理審査機構というところに審査をお願いしている。彼らは若手だけれど、とても熱心である。結果的には、これでよかったのかもしれないと思う。

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

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