週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第288回 コミュニオン
たとえば、小さな子どもが転んで泣き出したとしよう。そのとき一緒にいる母親の反応を3タイプあげてみる。
母親Aはとっさに泣いているわが子を抱きしめる。といっても、抱きしめたほうがいいと考えてそうしているわけではない。思わず抱きしめてしまうのだ。泣いている子のつらさとか、転んだときの痛みとか、そういうものを瞬時に彼女は共有する。子どものほうはスキンシップによる安心感を得る。
母親Bは転んで泣いている子に「どこ、ケガしたの? 擦りむいたのね。お家に帰ったら消毒してあげる」と語りかける。でも子どもは起きようとしない。「痛いの? 歩けるでしょ?」まだ起きなければ「そんなとこで横になってたら歩く人の邪魔よ。ほら、みんな見てるわよ」。やっと子どもは起き上がる。
イライラしていたり、精神的に余裕のない母親Cならば、「泣くんじゃない、そんなことぐらいで!」と突き放してしまうかもしれない。突き放された子どもはいっそう泣き出すけれど、そのまま一人置いていかれるのも不安なので、泣きながらでも立ち上がり、母親のあとを追うことになる。
ちょっと話は変わるけれど、先日「愛と性の相談室」に見えた奥さんは、夫婦仲はよく日々会話もあるようだが、ただセックスにおいてはダンナさんが途中でダメになったり、ダメにならずとも射精まで行くことはないという。奥さんにしてみれば、よほど自分に魅力がないのかと不安になる。実際、行為中に泣き出したこともあるそうだ。ダンナさんは「気にすることはない」と言う。意を決してダンナさんと議論してみても、ケンカにもならなければ、解決にも至らないのだと……。
で、今回何が言いたいかというと、「コミュニケーション」と「コミュニオン」の違いである。「コミュニケーション」は説明する必要などないほど、そこかしこで使われている。監督面接で会う女の子たちの中には「セックスもコミュニケーション」と言い切る子も少なくない。言葉による意思疎通をコミュニケーションと呼ぶことには何の異存もないけれど、セックスもコミュニケーションだと言われると、僕にはちょっとだけ違和感がある。
一方、「コミュニオン」のほうは「コミュニケーション」ほどポピュラーではない。キリスト教ではよく使われるみたいだが、『新約聖書』に出てくる「コミュニオン」には「交わり」とか「一致」という訳があてられていると聞く。
さて、この2つの言葉について、その違いも含めてラジニーシが端的に指摘しているので紹介しよう。バグワン・シュリ・ラジネーシ著『存在の詩』(スワミ・プレム・プラブッダ訳、めるくまーる社、1977年刊)からの引用である。
〈世界中のあらゆる神秘家たちが
コミュニケーションということに関する限り
常に無力を感じてきた
コミュニオン〈交合〉は可能だ
しかしコミュニケーションは駄目だ
まず第一にこのことが理解されなくてはならない
コミュニオンは全く別な次元に属する
ふたつのハートが出会う――
それは〈情事〉だ
コミュニケーションは頭と頭
コミュニオンはハートとハートだ
コミュニオンはフィーリング
コミュニケーションは知識だ
(中略)
あなたが絶頂の瞬間を
エクスタティックな瞬間を知ったとき
それを言葉で語ることは不可能と化す〉
つまり、「コミュニケーション」は主に「思考」が主導権を握っているが、「コミュニオン」のほうは「感情」の領域であり、感じ合う世界である。そこでは相手との一体感が生まれ、至福が訪れる。
さて、冒頭に書いた3人の母親の反応について思い出していただきたい。感情が表われていたのはAとCだ。ただし感情は感情でも、Cの場合はイライラをぶつけていたわけだから、一体感とは真逆の状態。コミュニオンは、とっさに抱きしめたAである。
それに対して、Bは思考で対応しており、こちらはコミュニケーション。言っていることはどれも正しいけれど、そのときの子どもの感情と正面から向き合ってはおらず、論理的に諭し、説得している感じだ。子どもとしては到底その場で反論などできるものではない。
では、「愛と性の相談室」に見えた奥さんの場合はどうだろう。ダンナさんはBタイプのしっかりしたお母さんに育てられたのではないかと僕は想像している。奥さんが困って相談すれば、解決に至るための選択肢をいつも論理的に提示してくれる夫。彼自身、きっと人生の難題は頭脳によって切り拓いてきたのだろう。そして、そんな夫を奥さんも頼もしいと思って見てきたはずだ。
けれども、ことセックスに関してはそれが当てはまらないんじゃないかと気づく。生じたギャップは、ほかのことのように理路整然と説明されても最後まで埋まらない。なぜならば、奥さんはコミュニオンのほうを求めているのに、ダンナさんはコミュニケーションで応じているから……。コミュニケーションでは、「ふたつのハートが出会わない」のである。
2014-11-14(00:00) :
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