週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第289回 死に直面すると
事務所のスタッフから「監督は若いとき、死に直面したことがたくさんあると思いますが、実際、その場に臨むと何を思うものですか?」と訊かれた。
不良をしていた頃、死を覚悟したことが何回かあった。そのとき何を思ったかという質問だが、一例をあげれば山陰でストリップの興行を打っていたとき、とある組織の邪魔が入った。
今ならストリップ劇場という専用のハコがあるけれど、当時はその日の上映が終わった映画館を借りてストリップを見せていた。その地で興行を仕切る組とは事前に話をつけておくわけだが、その組よりも対抗する組織のほうが大きかった場合には厄介なことが起きる。
山陰の映画館に乗り込んできたのは15~16人はいただろう。こっちは僕を入れて2人。日本刀で応戦した。しょせんは多勢に無勢なのだけれど、殺されずにすんだのは場所が映画館だったのが大きい。椅子が固定されている。だから相手は右か左から来るしかないが、2人が刀を振り回していれば、そうそう近寄れるものでもない。加えて、相手も飛び道具を持っていなかった。
そうこうしているうちに、ある県会議員がやってきて間に立った。そして結果的に事なきを得たのである。一歩間違えば死んでいたわけだが、死に直面してどう思ったかといえば、べつに恐怖は感じなかった。もちろん逃げ出したいとも思わない。目の前のことに手一杯で何かを考える余裕がないというのもあるけれど、それだけではなかったように思う。
死に対する本能的な恐怖というのはみんな持っているものだが、それ以上に恐れるのは、親兄弟や子どもといった愛する人や近しい人ともう会えなくなることではないだろうか。当時、家族もいない僕には、そういう失うものが何もなかった。自分の将来に夢や希望があるわけでもなく、心のどこかでいつ死んでもいいやと思っていたのである。
ところが、カタギになって、結婚し、子どもも生まれて……となれば、そんな僕にも失うものができた。ここに来て死を覚悟したのは、うつのときだ。どんどん体力が落ちてゆく。このまま行けば、あと半年持つかなぁと思っていた。なので自分の墓も買った。死への身づくろいを始めたのだ。
家族や友人と会えなくなる寂しさは感じたものの、それでも死への恐怖は不思議となかった。生命力が低下すれば思考力も当然落ちるわけで、それも多少は影響していたかもしれない。いずれにしても、そのとき僕は抗(あらが)うことなく自分の死を受け入れるつもりだった。
若い時分から数々の修羅場をくぐってきたので肝がすわっていた――というわけではない。死とは完全に自分がいなくなることではなく、肉体を離れるだけで、死後も意識なり魂は生き続けるだろうと思っていたからだ。そう思うに至った理由はいくつもあるけれど、本で読んだり目の当たりにしたり人から聞いた「臨死体験」もまた、そのひとつである。次回はこの「臨死体験」について書きたいと思う。
2014-11-21(00:00) :
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