週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第283回 裏切りの脱出
僕はラジニーシの哲学に傾倒しながらも、なぜ会いたいとは思わなかったのだろう。
ひとつには、ラジニーシに弟子入りした仕事仲間、彼らから受けた印象がある。具体的に何をどう言ったかは忘れてしまったけれど、覚えているのは、ラジニーシについて語るとき、彼らがしばしば奥歯にものが挟まったような言い方をしたことだ。もっと直截に言えば、どうやら快く思っていない感じなのだ。
にもかかわらず、ラジニーシの写真が入ったマラはいつも首からさげている。僕からすれば、それはちぐはぐに見えた。でも、そのワケを彼らは語らない。謎が解けたのは、ずいぶん後になってからである。
ヒュー・ミルン著『ラジニーシ・堕ちた神(グル)』(鴫沢立也訳、第三書館刊)という本が1991年に出た。著者のミルンは、プーナにアシュラムをつくる前からの弟子で、プーナ時代に側近となった人物。彼はこの本の中で、ラジニーシにまつわる衝撃的な事実を綴っている。
1970年代後半、ラジニーシのもとに世界じゅうから多くの人間が押し寄せる。アシュラム拡大の裏には、彼ら信者の献身的にして無償の労働がある。もちろん金銭的な貢献も。カネのある信者は多額の寄付をし、アシュラム内のいい場所に住む。ない者はアシュラムの外に掘っ立て小屋を建て、女なら体を売り、男なら麻薬の売買によってカネを稼いだ。こうして教団の資産は莫大にふくれ上がるが、税金は払っていなかったようだ。
それに加えて、映画や雑誌でさえヌード御法度だったインドにおいてフリーセックスである。だが、子どもを産むことをラジニーシは許さない。最初は女性の不妊手術。残酷だということで反対が起きると、今度は男のパイプカット(著者のミルンもパイプカットを受けている)。こうして妊娠は避けられたものの、性病がアシュラム内に蔓延してしまう。
売春、麻薬、莫大な資産、脱税、フリーセックス、性病。そして不法滞在および偽装結婚。もう無茶苦茶である。警察当局の手が伸び、また暗殺者から命を狙われることも度々で、とうとうインドにはいられなくなる。
1981年、ついにラジニーシはインドを脱出し、アメリカへと向かう。その際、出国手続はいっさいなく、乗っていたロールスロイスをそのまま滑走路に入れ、ボーイング747の前輪近くに停めたという。巨額の賄賂が動いていたのだ。しかも、ファーストクラス40席すべてを押さえ、そこに乗るのはラジニーシと伴侶といわれる女性と女性秘書の計3人のみ。
ラジニーシに帰依していた数千人の信者たちは、アシュラム内にいた者も、掘っ立て小屋にいた者も、みんな置き去りにされたのである。『ラジニーシ・堕ちた神(グル)』でこの脱出劇を読んだとき、かつて、僕の仕事仲間がラジニーシについて語るとき、なぜ奥歯にものが挟まったような言い方をしたのか、わかった気がした。
けれども、彼らはマラを捨てなかった。どうしてだろう? ラジニーシは弟子たちに執着を捨てるように教え、明け渡しを求めた。おそらく置き去りにされた彼らは、こう思ったのではないだろうか。ラジニーシは今も自分たちを試しているのだと。
渡米したラジニーシは、ロールスロイスを買いつづけ、その数は結果的に90台に達する。「執着を捨てよ」と言っていた彼がである――。
(つづく)
2014-10-10(00:00) :
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