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第10回 ビデ倫の崩壊

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 アダルトビデオを見る人なら、「ビデ倫」(日本ビデオ倫理協会)の名はよくご存じだろう。このビデ倫が一昨年、モザイク処理の薄いDVDの販売を幇助(ほうじょ)した容疑で、警視庁から摘発を受けたのはご存じだろうか。

 僕がアダルトビデオを始めた頃、ビデ倫は映倫(映倫管理委員会)の片隅に机を一つ置いて、映倫の先生で手があいている人がビデオの審査もしていた。当時の先生方、つまり審査員たちはよく勉強もされていた。

 たとえば、出版物の性表現を解放したときに西ドイツで性犯罪がどのくらい減ったとか、それと比較して、解放していない東ドイツでは性犯罪の発生件数が西ドイツを上回るとか......。このような勉強に加えて、なにより審査員たちは映画を見る目を持っていた。

 ところが、時がたつにつれ、そんな先生方も体調を崩されたりして、退職されていった。すると、ビデ倫の理事を務める一部のビデオメーカーが、ビデ倫に対して横車を押すというか、どんどん圧力をかけてきた。要するに審査基準を甘くしろと言うわけだ。圧力をかけられたビデ倫も、すんなりそれを聞き入れてしまい、基準がどんどん緩和されてゆく。

 そうかと思うと、人権擁護の団体やフェミニストと言われる人たちがクレームをつけに乗り込んでくれば、また審査基準が変わる。要するに場当たり的で、主体性というものがまったくない。

 しかも、ビデ倫は自主規制機関のはずだが、途中から警察の天下り先にもなっていった。ビデ倫の理事長が警視庁に天下りのお願いに行ったら、それを手配する人事部のような部署があって、天下り先がリストになっていたという話も聞く。

 あまりにひどいので、しがらみや癒着がなく、公正で独立した判断ができる立法府のようなものを作ってくれと、僕は何度もビデ倫に文句を言った。しょっちゅう僕がクレームをつけるので、ビデ倫のある事務局長とは親しくなったくらいだ。

 あるとき、その事務局長がこんなことを僕に言った。「実は審査員が、もう私の言うことを聞かないんだ......理事会社の顔色だけをうかがっている」。審査員はその多くが理事会社、つまりビデオメーカーから就職を斡旋してもらっている。なかには映像に携わった経験がない人すらいる。

 ビデ倫では毎日午前中に審査員全員が集まって、前日の反省会と今後の審査をどうしていくかといったミーティングがあるらしいのだが、事務局長いわく「そこにも、もう審査員が出てこなくなった」と。

 それから数年後、「消し」が極端に薄くなった。びっくりした僕は、うちはうちで自主規制しようということにした。なぜなら、もし「消し」の薄さで競争したら、行き着くところは裏ビデオになってしまうし、見えるというだけで競うのなら、だれが撮っても変わらない。そうじゃないところで、見てくれる人をどう惹きつけるかで勝負していこうと。そうじゃなきゃ、あまりに寂しすぎる。僕はそう思ったのだ。そして、このままだとビデ倫はやられるなぁと。

 案の定、警察の摘発を受けたとき、僕はビデ倫の理事長に「話がしたい」と申し入れ、ビデ倫の顧問弁護士の事務所で会うことになった。

 理事長に僕は言った。「今回、突っ張ったら裁判に負けます。これは起こるべくして起こったし、実際に猥褻(わいせつ)が売りだとパッケージ全面に謳っているわけでしょう。だから、ビデ倫が新基準に移行するときにミスがあったと認めたほうがいいです。判断基準が統一できなくて混乱が起きてしまったと。今回はミスを認めて謝るほうが、ビデ倫の権威は保てるんじゃないですか」

 同席した顧問弁護士にも「先生のほうも、そういうことでお願いします」と言ったら、「わかった。落としどころを考えましょう」ということになり、その日の話し合いは終わったのだった。

 数日後に、ビデ倫が記者会見を開いた。その席上で理事長は「これは表現の自由だ!」と言うではないか。はっきり言って、僕は全身から力が抜けた。なんだ、そりゃ。

 で、結局、ビデ倫は解体である。顧問弁護士も、「ロマンポルノ裁判で無罪を勝ち取った男なので、ぜひとも話を聞きたい」と言ってくれて会ったのだから、僕の提案も少しくらいは参考にしてくれると思ったのだが......。

 連絡もないから、あの数日間にビデ倫の内部で何が起きたのか、いまだに僕にはわからない。いま僕は日本映像倫理審査機構というところに審査をお願いしている。彼らは若手だけれど、とても熱心である。結果的には、これでよかったのかもしれないと思う。

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

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