週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第146回 幽体離脱の話
先日、2泊3日で北海道に行ってきた。往きの飛行機の中、僕は『ミラーニューロンと〈心の理論〉』(子安増生・大平英樹編、新曜社刊)という本を読んでいた。その中に次のような件(くだり)がある。
〈脳手術中の患者においてこの右下頭頂葉領域(特に角回と呼ばれる部位)を電気刺激すると、自分が自分の身体から脱け出て外から自分を見ているという感覚、いわゆる幽体離脱(out-of-body experience)を経験するという報告がある(Blanke et al.,2002)〉
つまり幽体離脱という現象も、脳のメカニズムとして説明がつくというわけである。
今回の北海道行きには、義弟の見舞いという目的もあった。女房の妹の旦那なのだが、今年還暦を迎えた彼はずっと塗装職人としてやってきていた。その義弟が仕事中に8、9メートルの足場から落ちた。訪ねた入院先のベッドの上で、彼はこんな話を僕にした。
「長年この仕事をしていて、落ちるなんてのは恥ずかしい限りなんだが、足を滑らせて落ちた瞬間、見ている自分がいたんだよ。このままだと頭を打つのがわかったから、起き上がらなきゃと思った。それを俺は上から見てたんだよ」
義弟は、骨盤の右側を複雑骨折し、鎖骨が体の外に飛び出し、右の頬骨を骨折、左腕も粉砕骨折したものの、頭だけは打っていなかった。さらには内臓も無事だった。ダメージの大きさから見れば、体の右側から地面に叩きつけられ、一回バウンドして左手で受け身を取るような格好になったのかもしれない。負った怪我は決して軽くはないけれど、落ちながらも体を起こしたから頭を打たずに済んだのだ。骨が折れることによって、内臓も守られた。医者はその高さから落ちて、ほとんど奇跡に近いと言ったそうである。
つい数時間前「幽体離脱」を読んでいただけに、僕はとても不思議な気分だった。義弟のように突然のアクシデントに見舞われたとき、幽体離脱が起こり、自分を客観視座で見るという話は、これまでにも何度か聞いたことがある。たとえば、交通事故で車にぶつかって何メートルか跳ばされているとき、コマ落ちのモノクロームで自分が跳んでいる軌跡を見ることがあるという。
義弟が8、9メートル落ちるのにかかった時間は1コンマ何秒だろう。交通事故では衝撃の大きさでその時間も多少は変わるだろうが、いずれにしてもごくわずかな間に自分がどういう姿勢で跳ばされているかという情報を、色を省き、コマも間引いて必要最小限のものとして伝え、あとは防御のほうにエネルギーを使うということじゃないだろうか。
飛行機の中で読んだ本には、幽体離脱は脳のある部位への電気刺激が原因だと書かれていたわけだが、命を落とすような危機的状況に際して、電気刺激に匹敵するような何かを、脳は発生させるのかもしれないと思った。
この話には、まだ続きがある。今夏から札幌に転居した孫がヘリコプターを見ている。白いボディに赤いラインが入り「Doctor-Heli」と紺色で書かれた救急医療用ヘリコプターだ。4歳の孫は乗り物が好きなので、「ママ、ドクターヘリ!」とすぐに気づいた。言われた娘も、これまでヘリコプターなどじっくり見たことはないのに、そのときは視界から消えるまでずっと見届けていたと言う。あとでわかったことだが、夕張で事故を起こした義弟は、孫が見たそのドクターヘリに乗って、まさに札幌の病院へと運ばれるところだったのだ。
偶然と言ってしまえばそれまでだが、僕はまた不思議な気分に襲われた。
〈お知らせ〉 第143回のブログでもご紹介した新サイトがオープンしました。
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2011-11-25(12:00) :
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