週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第298回 途中で終わってしまった恋
物事には始まりがあって終わりがある。本編のみならずエンドロールの最後の1行まで見終わったような恋ならば、あるいは引きずることも少ないのかもしれないが――。
先日「愛と性の相談室」に見えた女性は、現在30代後半だが、十数年前に好きな人がいた。プラトニックな関係だった。彼女にはセックスに踏み切れない訳があったのだ。そうするうちに、彼に子どもができた。正確にいえば、彼が遊びでしてしまった別の女性が妊娠した。そして彼はこう言った。「一緒に子どもを育てよう!」。
なにそれ!? 浮気しといて、よくもしゃあしゃあと……と思われるだろうか。相談者の彼女は日本人だが、彼はアルゼンチン人。余談だが、カトリックゆえ子どもを堕ろせないラテンの人間にとっては「僕の子どもは君の子ども」みたいなところがあって、彼の言っていることはその世界観からすれば特別非常識でもないらしい。
しかし、日本人の彼女、しかも当時20代前半の彼女にとって、それは到底受け入れられることではなかった。2人の関係を「友達に戻そう」と彼に告げる。こうして突然、恋は終わったのである。
その後、何人かの男を好きになるものの、どうしても彼を忘れられない。頭では忘れようとしても、心が断ち切れないのだ。
ところが、話はこれで終わりではない。今から5年ほど前、偶然ネット上で彼女は彼と再会する。その前の年に妻(十数年前に妊娠した女性)と別れ、子どもはその女性が引き取ったようだ。いろいろ話をしてみると、あれからもお互いに気になっていたのがわかる。それから彼女は実際にアルゼンチンまで会いに行っている。とはいえ、つねに不安はつきまとう。かつての寝耳に水だった妊娠報告。似たようなことが再び起きるんじゃないか……。
心配が完全に払拭されたわけではないけれど、相談に見えたときには「今はそこまで不安にならなくていいのかなって思います。それよりももっと自分が見るものがあるだろうと……」と彼女は言った。
続けて「途中で終わってしまった恋というのもあるんでしょうけど、彼とは何か不思議な関係なんですよね。だから、先はどうなるかわからないけど、いつか彼と一緒になりたいと思ってます。でも『よしっ行くぞ!』っていう勇気がなかなか出なくて……」。
アルゼンチンは、日本から見ればまさに地球の反対側。一緒になろうとすれば、現実的にいろいろな覚悟がいるだろう。だが、彼女が本当に悩んでいたのは、物理的な距離の問題ではなく、自分の内面のことだった。
彼女は13歳のとき、髪の毛が抜けてしまう。行った病院では、彼女だけでなく家族全員が心理テストを受けることになった。テストでは絵を描いたらしいが、その絵に出てきたものとは……? 医者はこう言ったそうである。「この子は7歳くらいのときに何か大きな、すごく大きな傷を心に負っています」。
親は驚いた。でも思い当たることがない。7歳のとき、この子は何をしてただろうと思い返してみても、「ピアノを学ばせたのがよくなかったのかしら……」くらいだった。そして、すごく大きな傷を負ったはずの彼女自身もまた、何があったのか思い出せないままだった。
20歳を過ぎた頃、彼女はその原因をつきとめて、たとえそれが何にせよ、心に傷があるのなら治療してみようと思い立つ。そうしてセラピーやカウンセリングを受けながら、少しずつ記憶の断片が明らかになっていく。「私、小さいときに怖いことがあったみたい」、「私、ピアノに行っていたときにすごくイヤな経験をした」。
そして、深層では男性への恐怖をずっと抱いていたんだと気づいたとき、髪の毛がまた生えはじめたという。それはちょうどアルゼンチンの彼とプラトニックな恋愛をしていた時期でもあった。彼女はそのときの心情をこう語った。
「彼とセックスしなかったのは、男性に対して恐怖心があったというもあるんですが、同時に(彼を)失う怖さもすごく大きかったんですよ。頭にチョボチョボいろんな所から毛が生えていて、まるで大根おろし器みたいに。腕枕されたらジョリジョリする頭を、大好きな人には見せられなかったんですよ。それがとても悲しかったし、彼は『ぜんぜんそんなの気にしないよ』って言ってくれたのに……」
(つづく)
2015-02-13(00:00) :
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