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第285回 魔が入る


 アメリカを追われたラジニーシは、次なる拠点を探していた(日本もその候補にあがっていたという)。しかし、彼を受け入れる国はなく、結局インドに戻っている。そして1990年、58歳で亡くなった。死因には諸説あるのだが……。

 4回にわたってその生きざまを追ってきたけれど、ラジニーシのように振り幅の大きな男はそうそういるものではない。では、いったいなぜ彼は道を外れてしまったのだろうか?

 僕はひとつの試みとして、スピリチュアル・カウンセラーの早坂ありえさんに霊視してもらうことにした。ラジニーシについて彼女はほとんど知らないようなので、持参した本のうち『ラジニーシ・堕ちた神(グル)』をまず見せた。


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 カバーの写真を見るなり「この人、死んだ人だよね?」と訊く。僕がうなずくと「魔が入っている。コントロールされてるよ」と彼女は言った。

 それを聞いて「第三の目のイニシエーション」を僕は思い出していた。眉間が第三の目の場所だが、ラジニーシの指先が信者のそこにふれると、信者は至福の境地に至るという。

 だが、これはおそらく催眠の応用だ。相手をトランス状態に誘導しておけば、第三の目にふれて至福の境地に誘(いざな)うこともできるし、ビデオの現場なら下半身へ手をかざすだけで女の子をイカせることもできる。

 しかし、何千人もの信者にトランス誘導をくり返し、場を共有すれば、ラジニーシ自身もトランスに入り、自分を明け渡した状態が長く続くことになる。言ってみれば“窓”がずっと開いている状態だから、なるほど魔が入ってくることもあるだろう。

 つづけて早坂さんに『TAO 永遠の大河 1』(めるくまーる社刊)の中の一枚の写真を見せた。


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 「凄い! 絶頂期だよね!」と彼女はさっきとは打って変わって目を輝かせた。「彼、呼べないかな?」と僕は言ってみた。それからしばらくラジニーシの霊を見ているようだったが、やがて「もう裁きを受けるところに並んでるから、記憶があんまりないよ」と言う。

 早坂さん曰く、人は死んだのち、裁きの場で自分の一生を見せられる。ただし、その時点で生前の記憶は完全に消え、第三者としてそれを見ることになる。そののち、前世でやり残した課題を果たすために転生するのか、霊のまま修行を積むのか、道は分かれるという。ラジニーシは裁きが近づいたので、だんだん記憶が薄らいできているということだろう。

 僕は「それでも訊きたいことがある」と言って呼んでもらうことにした。知りたいことはいろいろあるけれど、しいて言えば2つである。僕には見えないが、やってきたラジニーシに最初の質問を試みた。

 「あなたが毒殺されたという説がいろんな本に出てくるんだけど、実際にはどうだったんですか?」。ラジニーシは「食べ物と注射でやられた」と答えた。

 そして第2の質問。「シーラとあなたの力関係は、実際のところ、どうだったんでしょうか? 言われているように、シーラが自分の好き勝手にしたのか? それとも、じつはあなたの命令で動いていたのか?」。僕にとっては、ここがいちばん訊きたいところである。

 で、ラジニーシが何と答えたかというと、それは「もう帰っていいか?」だった。毒殺についてはすんなり肯定したものの、シーラとの関係というか、どちらがどちらを動かしていたのかについては、聞けずじまいだったのだ。この質問に彼がなぜ答えなかったのか……僕にはわからない。

 早坂さんは僕に言うでもなく、ラジニーシに言うでもなく、「本当は81まで生きる寿命だったよね……」と言った。

 早坂さんの事務所を引きあげるとき、「この本から伝わってくるパワーは本当に凄い。ぜひ私も読んでみたい!」と言われた。この本とは2番目に見せた『TAO 永遠の大河 1』である。「ブログを書き終えたら、また持ってくるから」と言って部屋を出た。


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 今から三十数年前、この本に出会い、夢中になって読んだ。そこから学んだことは、その後の性との向き合い方、そして僕自身の生き方に多大な影響をもたらしたのだった。ラジニーシがそれ以降、『TAO』で語ったこととはまるで真逆の、それこそ執着を地で行くような生き方をしたとしても、あのときの教えが、僕の中で風化したり色褪せてしまうことはない。

(了)






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