週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第255回 大雪の降った日に〈前編〉
東京に大雪の降った金曜日、電車にしようかとも思ったのだが、結局クルマで事務所に向かった。クルマ通勤に慣れてしまうと、満員電車に乗るのが億劫になる。天気予報は雪の可能性を告げている。ただし、降り出すのは夕方からで、降雪量も1週間前に比べたら少なそうだ。
ところが、さにあらずだったのは、あの日都内にいた人なら身をもって体験されたはずである。昼すぎから雪が舞いはじめた。夕方からじゃなかったのか……。しかもどんどん激しさを増してゆく。こりゃ、1週間前より積もりそうじゃないか。帰るんだったら今だなぁ……と8階にある事務所の窓から雪に覆われてゆく街を見て思った。
翌々日の日曜にクルマを使う用事が入っている。それを考えると、やはり乗って帰りたい。家に電話した。「そっちの様子はどう?」「もうダメよ、こっちは。都心とぜんぜん違うから!」と女房がまくしたてる。「そう。これから帰る」と言って電話を切った。
電話を切って、時計を見ると午後4時半。すぐに事務所を出た。ノーマルタイヤだが、首都高さえ通れれば世田谷の自宅まではなんとか辿り着けるだろう。首都高の乗り口がすでに閉鎖されていたら、そのときは事務所に戻って、編集の続きをしよう。
幸い首都高はまだ閉鎖されていなかった。慎重に走って、用賀で降りる。ところが、そのころにはいよいよ雪がヤバいなぁという感じになってきた。とっさにここから自宅に着くまでコインパーキングがどこにあったかを思い浮かべる。行けるところまで行って、最悪の場合はパーキングに入れよう。
首都高もそうだったが、一般道でもみんな最徐行だ。そのうえ車間距離はいつもの3~4倍もあけている。ふだんなら我先にというドライバーが多いのに、長い車間距離をつめようとするクルマは、ここまで走ってきて1台もいない。僕はハンドルを握りながら妙な連帯感のようなものを感じていた。外圧が生じると内部の結束は固くなるというけれど、これもそうだろうか。
世田谷通りから成城通りに入る交差点に差しかかる。ここは五叉路で、僕は世田谷通りから右折する。わずかな勾配ではあるものの上り坂。正面の信号は青だ。「なんとか青のまま行ってくれー!」と心の中で念じる。いま上り坂の途中で止まりたくはない。
ところが、みんなゆっくり走っているので1台前で黄色に変わり、僕のところでは完全に赤になった。停止線で止まるつもりが雪で見えず、結果的には2メートルもオーバーしてしまう。信号待ちの列の先頭である。雪はすでに何センチか積もっている。上りの雪道でも、走っていれば慣性も手伝って進んでいくけれど、いったん止まって、果たして動き出せるだろうか?
五叉路の信号が複雑に切り替わり、目の前の信号がふたたび青に変わる。頼むぞ! アクセルペダルに置いた足にそっと力を込める。後輪が雪に空転する。クルマは動かない。もう一度踏み込む――空転。何回やっても、空転した時点でエンジンはそれ以上吹けなくなる。スリップ防止機能が働いているのだ。
そこへ成城通りから大型のトラックがやってきた。めったに大型車は通らない道なのに……。トラックは左折して、僕の右側を抜けようとする。けれども、停止線を大きくオーバーしている僕が邪魔になって曲がれない。トラックの後ろには後続車が列を成し、トラックは後退もできず、交差点内で立ち往生する。信号は順に変わっていくけれど、トラックがいるために他のクルマも通れない。
原因となった僕は、一刻も早く道を譲りたいところだが、いっこうにクルマは動かない。そればかりか、アクセルを踏むたびに小さなスリップをくり返していたので、クルマが少しずつ横を向きはじめ、尻が左側の車線にはみ出し、今や直進するクルマまでも止めてしまっている。
間違ったぁ。ひとつ手前のコインパーキングに入れときゃよかった。だが、あとの祭りである。申し訳ないやら、恥ずかしいやら。自業自得とはいえ、のっぴきならない状況に追い込まれる。どうしよう……。
(つづく)
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2014-03-07(00:00) :
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