週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第252回 面接で落とした高校教師
現役の高校教師を監督面接した。現在20代半ばで、体験人数は約50人。そのうちつきあったのは2、3人。会話の中で「味見」という言葉を、彼女は頻繁に口にした。たとえば「男を味見して、よければ次もありだし、つまんなければ終わり」といった具合に。彼女にとってセックスは、デパ地下の試食みたいなものなのか……。
実際、セックスをしていて「さわり方が雑だなぁ」とか「ツボに来ないなぁ」とか「あっ、このパターンか」などと思うそうだ。話を聞きながら、「そうすると恋人ができないよねぇ」と思わず僕はつぶやいた。彼女も「好きになる人がいないんです」と言う。セックスの真の歓びも知らないに違いない。
「セックスってのは、心を開ければ、抱き合うだけでも幸せを感じるものだし、言葉だけでもイケるんだよね」と言ったら、「えええっ!!」というリアクション。ひと言でいうと軽い。そして、こちらの話をまったく信じていない。
催淫CDは言葉だけでイクところまで誘導するものだが、過去の作品のそのシーンを見せることにした。百聞は一見にしかずだ。見終わって感想を求めると「あんな大きな声出して、なんかねぇ……本気なの?」と言う。「演技に見える?」と訊いたら「演技といえば演技でもできちゃうし……」。
彼女がこれまで肌を合わせた50人のなかには、本来恋人になる人間が何人もいたかもしれない。だが、彼らを「味見」していたら、彼女はそれに気づくことなく「はい、次!」と取り逃がしていたのではないか。このままでは、恋人に出会うことは生涯ないかもしれない。
「もう結婚なんて考えてないし、私の友達でも離婚して、子ども2人を自分で育ててる。結婚は墓場です」と言う。彼女はもう誰にも期待してないのだろうか。自分で「これはこう」と決めた基準だけを信じて……。この人が本当に人を教えているのか。あるいは教壇に立てば、今とはまったく別人と化すのだろうか。
自分と向き合うのが怖いのかなと僕は思って、そのへんのことも訊いてみたのだが、「私はこういう人間だし、それがきのうきょうじゃなくて、もう10年以上こうだから、それを変えろったって無理ですよ」と言う。
そこで、自分の奥にしまい込んだ感情が出てくる呼吸法を彼女に試みた。ところが、ハッ、ハッ、ハッという速い呼吸を2、3回やると咳き込む。「咳は出るんだったら、しっかり出して!」と言うが、また2、3回で咳き込むから呼吸法はそこで止まってしまう。そのくり返しだった。
「僕はこれまで多くの人を見てきたけど、たったこれだけの呼吸で咳き込むというのは、あなた、やりたくないんだよね」。やりたくないという思いが咳になって現われる。彼女の咳は拒絶なのだ。「いや、この前まで風邪引いてたから」と彼女は認めなかったけれど。
きっと彼女にしてみれば、たかがAVの事前面接でなんで根掘り葉掘り訊かれ、こんなことまでしなくちゃいけないのかと思っているだろう。撮影現場の話になったとき、彼女は「監督が言ってくれれば、そのとおりにしますから」と何度も言った。「いや、そうじゃなくて、あなたが自発的にいろんな行動を起こしてくれるというか、セックスのときにね、そこを撮りたいんで、その自発の根っこになるものがないから、今こうして話してるわけで……」。
彼女は(そんな七面倒臭いことはいいから、言われたとおりにするんで、何すればいいのか言ってください)というノリなのだ。「監督に言われたとおりにやっても、心が入ってなければ撮ってもしょうがないんで」と言う僕に、彼女はこう言った。「でもAVって、そんなもんじゃないですか」。
「悪いけど、僕は撮れない」と言って帰すしかなかった。面接を終えて、終始、彼女が片足しか突っ込んでいないというか、半身しか向き合ってこないような印象だけが残った。参加しているようで、じつは常に客観的に引いて見ている。だからセックスが味見になる。
仮にビデオに出ても「監督が指示してくれれば、そのとおりに動きますよ」というのでは、最後まで本当の自分は出てこないだろう。もしそれで上手くいかなかったら「だって、あれは監督に言われたんだもん」という逃げ道も用意されていると言ったら、ちょっと意地悪だろうか。
しかし、人は自分が与えたものしか与えられないのだ。甘えたり、思いを伝えたり……それが自分に返ってくる。生身の心は傷を負うこともあるけれど、それでしかつかめない、だからこそ尊い歓びがある。そこに逃げ道はない。
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2014-02-14(00:00) :
週刊代々木忠
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