週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第188回 いつしか心を置き忘れて
僕が不良をしていた頃、憧れたヤクザの親分がいた。名を保良浅之助(ほら・あさのすけ)という。篭寅組(かごとらぐみ)初代にして衆議院議員となり、勲四等も受けている。とはいえ、僕が憧れたのは、彼が政治家になったからでもなければ、勲章をもらったからでもない。
「カタギに嫌われて大親分になった人間はいない」と言われるけれど、保良浅之助は自分の身の程を知り、地に足のついた生き方を貫き、他者に貢献する歓びを知っていた。「そんなヤクザが本当にいるのか?」と思う人がいるかもしれないが、本来「任侠」とは、困っている人がいれば、あるいは手助けを頼まれれば、放っておけず、その人を助けるために体を張るということである。
弱い者いじめはいかんし、カタギに迷惑をかけてはならん。俺たちは裏街道を歩いてるんだから、それにはそれの生き方があるだろうという思いをヤクザは懐(ふところ)に持っていた。だから「カネのために」というのが、かつてヤクザにとってはいちばん恥ずかしいことだったのだ。
それがいつしかヤクザも経済原理で動くようになる。義理や人情などと言っていたら時代遅れと笑われる。なぜ「任侠」より「経済」を優先するようになったのか……。それはやはり縄張り争いが大きな要因だっただろう。昭和30年代から40年代にかけて、山口組が全国制覇に向け、各地の組を傘下に収めていった。他の主だった組織も連合を組むなり、それに対抗してゆく。抗争となれば道具も必要になるしカネが要る。
昭和30年代から40年代といえば、日本の高度経済成長期と符合する。心よりも経済的なものが価値を持ったのは、なにもヤクザだけの話ではなく、日本全体が心をどこかに置き忘れていったのだ。
時代は変わった。暴力団対策法が改正になり、暴力団排除条例も各都道府県で施行された。ヤクザの銀行口座は凍結され、ローンも組めなければ、賃貸物件も借りられず、食事や葬儀でさえ、団体では受け付けてもらえないという。
もっとも、一般の人たちからすれば、ヤクザがいくら追いつめられようと困ることはないし、むしろ撲滅にでもなれば平和な社会が実現できていいじゃないかと言う人も多いはずだ。だが、僕はちょっと違う。オモテがあれば必ずウラがあるように、いくら追いつめても、きっとヤクザはなくならない。
社会からはみ出し、ヤクザでしか生きられない者たちがいる。彼らが更生するための受け皿も作らないまま、ただ追いつめていくだけでは、手段を選ばず何としても生き残ろうとするに違いない。そうして巧妙に地下に潜っていく。組織に名をつらねず、自分たちは直接手も下さない。むろん警察とのパイプラインも断たれる。きっと現場の人間はわかっているはずだが、それは警察が自分たちの首を絞めているようなものだ。
また、一部の組織は警察の思惑どおり壊滅状態になるかもしれない。しかし、それでも人は残る。親でも手に負えない連中を、今度はいったい誰が束ねていくというのか。それまで背負っていた「代紋」という抑止の外れた彼らは本当に危ない。
それだけではない。外国のマフィアたちは「日本ほどオイシイところはない」と言っている。日本のヤクザが弱体化すれば、彼らは今まで以上に日本で好き勝手をし、裏社会を席捲(せっけん)していくことになる。不法入国者たちを手足のごとく使い、日本人とは考え方もやり口もまったく異なる彼らと警察はどう向き合うつもりなのか。
僕はヤクザを単に擁護したいと思っているわけではない。ヤクザが生き残っていくにはもう一度「任侠」に立ち戻る必要があると思う。損得抜きで彼らが動けば、マスコミも最初は黙殺するか、「利権目当て」とか「売名行為」としか言わないかもしれない。だが、心を置き忘れた時代だからこそ、必ず見る人は見ている。ヤクザがヤクザとして生き残るには地域との共存しかない。
一方、警察権力は、たとえばパチンコの景品交換といった、それまでヤクザのシノギだった諸々を横取りして太らせ、そこに自分たちの天下り先を確保するのではなく、本当の意味で住みやすい世の中を作っていってもらいたいと思う。
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2012-10-12(00:00) :
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