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第103回 いのちの清流

 この前の日曜日、ウォーキングから帰ると、上の娘一家が来ていた。二人目を身ごもっている娘は、これから夫婦で安産学級に出かけるという。あずかることになった3歳の孫に、ウォーキングの途中で見かけた鳥たちの様子を話して聞かせたところ、「じいじ、ボクも行きたい!」と言う。

 今帰ってきたばかりである。が、午後2時だから、まだ日は高い。「じゃあ、行こうか!」ということで、孫と二人で散歩に出かけた。これまでも週1回くらいの割合で、彼と遊ぶ時間はあった。でも、いつも家の中だ。しかも僕には娘しかいないので、こうして小さな男の子と二人きりで外出するのは初めてである。

 家の近くに仙川という名の、幅にしたら12、3メートルの川がある。この川沿いの遊歩道を歩いていると、孫が地面に埋め込まれたプレートに関心を示した。「カルガモ」「ヒルガオ」「クワガタ」と鳥や植物や昆虫などがそれぞれ描かれている。これまで幾度となく歩いたこの遊歩道で、プレートがあること自体は知っていたけれど、孫に言われて初めて何が描かれているのかを知った。これらのプレートは仙川周辺の自然に棲息している生き物たちを示しているのだ。

 今から約30年前、僕が世田谷に引っ越してきたとき、上の娘がちょうどこの孫と同じ3歳だった。その頃の仙川といえば、水が濁り、悪臭を放ち、川面に浮くのは小さなゴミばかりか、使われなくなった自転車や電化製品までが無造作に投げ込まれている川だった。だから当時、幼い娘をつれて仙川沿いを歩こうなどとは思わなかった。

 いったん死んでしまったかに見える川が、まさか後年よみがえろうなどと、僕は想像だにしなかったのである。山あいの清流とはいかないまでも、30年前に比べたら仙川の水質はずいぶん透明度が上がった。川岸には鮮やかなグリーンの水草が群生し、土手には寒椿やサザンカが咲いている。カルガモ、川鵜、青鷺、白鷺といった鳥たちが訪れ、大きな鯉も泳いでいる。こんなに綺麗になるものなんだなぁと、僕はあらためて驚かされる。



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仙川沿いの遊歩道(祖師谷公園)



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仙川のせせらぎ



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カルガモ(親)



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カルガモ(雛)



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青鷺


 「じいじ、うるさいよね、この鳥」と孫が言う。ヒヨドリだ。ヒヨドリは晩秋から冬にかけて「キキキキ」と空気を切り裂くような独特の鳴き方をする。「そうだね、うるさいね。でも、はるばる北海道から渡ってきたんだよ」と僕は言った。「へえー」と孫はびっくりしている。一昨年、北海道に住む女房の父親が亡くなったとき、孫も飛行機で葬儀に行ったから、北海道がとても遠いということは実感しているようだ。

 「じいじ、これ、何?」と今度は道端に落ちている琥珀色のつぼみを拾う。かつて華道をかじっていたので、何のつぼみかはすぐにわかった。「これは蝋梅(ろうばい)っていうんだよ。ロウソクの蝋(ろう)って知ってるかい? それに似ているでしょ」。僕の話を聞きながら、小さな手のひらにのせた柔らかなつぼみを孫はじっと眺めていた。

 結局、あたりが暗くなりはじめるまで3時間、僕は孫との散歩をいくぶん疲れながらも楽しんだ。娘の頃とは違って、孫がふれあう自然がある。自然の中に息づくさまざまな命がある。それらをよみがえらせた源は、やはり仙川を流れる水だったように思える。

 地球は「水の惑星」といわれる。しかし、地球の水の97.5パーセントは海水で、淡水はわずか2.5パーセントにすぎない。しかも、淡水のほとんどは南極と北極の氷だそうで、僕たちが利用できるのは、たったの0.01パーセントだという。地中深くにある伏流水や地下水等を除けば、0.0001パーセントという説まであるくらいだ。

 資源のない国とずっと言われつつも、こと水源に関して日本は恵まれた国と言えるだろう。近年、中国が日本の水資源の買収を進めているというニュースが目につく。北海道の森林はずいぶん買収されてしまったとも。もっとも、買収を進める外国資本は中国だけではないのだろうが。

 1995年、世界銀行の副総裁を務める人物がこんな予測をした。「20世紀は石油をめぐって戦争が起きた。21世紀は水を奪い合う戦争が始まる」。今や10億以上の人々が飲み水にさえ困っていることを思えば、この予測も現実味を増してくる。

 今回、孫との散歩を通して、きれいな水の恩恵をあらためて感じるとともに、子や孫そしてその先の世代へ、僕たちはこの水を受け継いでいけるのだろうかと、少なからず不安にもなったのだった。

テーマ : 日記
ジャンル : アダルト

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