週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第220回 反スマホ過敏症
つい先日のことである。事務所が入っているビルの1階で、僕はエレベーターを待っていた。階数表示ランプが降りてきて、ドアが開く。なかには若者が一人乗っている。が、スマホを見ていて出てこない。ひと間(ま)、ふた間……。気づいてないのか? 声をかけようかと思ったとき、やっと彼は歩き出した。顔は上げない。
エレベーターホールと呼ぶには狭い場所なので、僕は脇に立っていた。だが、視界に僕が入ってないのか、そのまま進んでくる。肩があたりそうになって、思わず僕のほうがよける。彼は無言でスマホに目を落としたまま、ビルから出ていった。「目ぇ覚まして歩けよ!」と言ってやりたいところだが、きっと同じビルの人間だろう。僕はやり場のなくなった苛立ちを飲み込んだ。
場所は違っても、似たような経験をした人はたくさんいるんじゃないだろうか。僕も今回が初めてというわけではない。歩道などで正面からスマホを見ながらまっすぐ歩いてきて、こちらがよけたというのは数知れない。彼らが、それこそ脇目も振らずに何をしているのか、僕は知らない。ゲームかもしれないし、LINEなのかもしれない。
僕には彼らがまるで異次元にいるように見える。肉体はそこにあるものの、意識はスマホの中の世界に行ってしまっている。道を歩いていて、人とぶつかりそうになったら、「すみません」とか「失礼」とか、ふつうは何かを口にする。他意はないことを表明することによって、無益ないざこざを回避したり、お互いがイヤな気分にならないための術。それも重要なコミュニケーションである。
ところが、彼らは言葉を発しない。いや、そもそもぶつかりそうになったこと自体、わかってないのではないか。彼らはそこにいるように見えて、じつはいないのだから……。
こんなこともある。道を歩いていると、後ろから話し声がする。同じ人間の声しか聞こえないので気になってふり返ると、一人しかいない。ひとり言なのか? よく見るとイヤホンのようなものを耳に入れてしゃべっている。電話なのだ。
ケータイやスマホを耳にかざして話しているのは、もうざらである。“自分の世界”真っ只中で、傍から見てるとバカみたいだが、本人はテンションマックス。大声でプライベートな話をしている。大勢の人が行き交うパブリックな場所で。
もともと電話はプライベートなものだったはずだ。家庭や企業に固定電話が引かれたとき、かりに家族や社員に聞かれることはあっても、見ず知らずの人の耳に入ることはない。公衆電話も昔はボックスの中に入っていて、ドアを閉めて話をした。店先や駅構内などに剥き出しで置かれた場合でも、近くに人がいれば通話口を手でおおい、小声で話したものである。個人的な話を他人に聞かれたくないというのもあるけれど、やはりそれが嗜(たしな)みだと思ったからだ。
にもかかわらず、今はプライベートとパブリックがボーダーレスになっている。公衆の面前で個人的な話をケータイやスマホでガンガンしている者にとって、まわりの人々は単なる景色としか映らないのだろう。
ケータイが登場し、それがスマホになって、いろいろ便利になったのは僕にもわかる。それまでは自分が行動することで手に入れていた情報が、どこにいようとスマホ画面に呼び出せるようになった。だが、便利なのがいいことばかりとは限らない。それじゃあ、肉体を持っている意味がないじゃないかと僕はしばしば思う。
僕のような人間を「反スマホ過敏症」というらしい。なるほどそうかもしれない。しかし言わせてもらえば、ほんの何年か前までは僕のような考えがふつうだったと思うのだけれど……。
1日に2時間以上、スマホの中の世界にいると、それは依存症の可能性もあるらしい。みなさんは大丈夫だろうか?
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2013-06-07(00:00) :
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