週刊代々木忠
いまこの瞬間の代々木忠の想いが綴られる
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第185回 性に目覚める頃(2)
前回
の話の続きである。近所の子どもたちと仲よくなり、親に言えないことでも話せる関係を築いた一人の男性。今年、中学にあがった子どもたちは、性への興味も露骨になり、父親のアダルトビデオをこっそり持ち出してきて、彼に見るようすすめる。見てみたら、ただヤルだけの即物的な無修正ビデオ。こんなものを見ていたら、子どもたちはどうなってしまうのかと心配する男性。代々木だったらどう考えるだろうか……。ここまでが前回の内容。
もし僕がこの男性の立場ならば、ビデオを持ってきた中学生たちに「これは見世物だからね。本当のセックスじゃないよ!」とまず言うだろう。彼らの反応を観察したとき、1人は目をそむけ、残りの2人はふざけ気味に映像を見ていたとあった。目をそむけている子はもちろんのこと、ふざけて見ている子も、「これは本当のセックスじゃない!」と信頼する大人が言い切ってあげることで、どこかホッとするんじゃないだろうか。もっとも、この男性は単なる正論を振りかざすのではなく、あくまでも現実的にものを考えている人だから、僕が書いたようなことはすでに言っているだろう。
だが、彼のような存在が身近にいる子はいいけれど、そうじゃない子のほうが圧倒的に多い。では、どうしたらいいのだろうか? 性に関心を抱けば、エッチなものが見たくなる。ネットを見れば、即物的なのも、無修正も、いくらでも見られる時代である。それについて書く前に、前回引用していない手紙の別の部分を紹介しておこう。
〈私は今の子ども達を見ていると可哀想というのか、こんなんで本当にいいのだろうかとしばしば思うことがあります。12年前に都会から田舎に越してきて不思議に思ったことがありました。それは子ども達の外で遊ぶ姿を見かけることがほとんどなかったことです。都会では今や空き地などありませんから理解していましたが、空き地などいくらでもあるこの田舎で子どもが外で遊んでいないとは、一体どういうことなのか不思議でなりませんでした。
(中略)その答えは近所の子ども達と付き合うようになって分かってきました。主な原因はゲーム機でした。今や田舎といえども都会の子と同じように、いやそれ以上にかもしれませんが、遊びの中心はゲーム機になっているようです。今さらこんなことが分かるようでは世間知らずといわれるかもしれません。しかし私にとっては驚くべきことでした〉
子どもたちが彼の家に遊びに来たとき、彼はゲーム機遊びを禁止する。そのぶん、彼も子どもと一緒になって遊ぶ。すると、子どもたちが頻繁にやってきて、休みの日には泊まっていったりもするようになった。夏休みには「野生に帰ろう」をテーマにキャンプをしたこともあるという。
僕は手紙を読んで、アダルトビデオもゲーム機も、それが子どもたちに与える影響という点では同じことが言えるのではないかと思った。マルコ・イアコボーニ著『ミラーニューロンの発見』(塩原通緒訳、早川書房刊)には、「模倣暴力」に関する長期研究の成果が記されている。「模倣暴力」とは、たとえば残忍な殺しの場面が出てくる映画やゲーム、実際の殺人事件の詳細な報道など、メディア(マスメディアのみならず、広い意味での伝達媒体)に氾濫する暴力によって誘発されるものをさす。研究成果の部分を同書から引用してみよう。
〈そうした研究の最初の1つが、1960年代にニューヨーク州で開始された。調査には約1000人の子供が使われた。もともとの攻撃性や、教育や社会階級などの主要な変数を調整した上で、この研究はメディア暴力を幼児期に目にすることが約10年後にあたる高校卒業後の攻撃性や反社会的行動と相関関係にあることを実証した。この結果だけでも充分に注目に値するものだが、続きはまだある。同じ少年たちをさらに10年、つまり最初の調査から合計22年にわたって追跡調査したところ、結果はまたも明確だった。幼少期のメディア暴力の視聴と幼少期の攻撃行動は、30歳時の犯罪性と相関関係にあったのである〉
本来、人間は自由な生き物だと考えられている。ひとつひとつの行動の根底にあるのは、自らの主体性であると。ところが、脳内のミラーニューロンは、僕たちにそうとは気づかせぬまま模倣を行なわせる。つまり、僕たちが自由意志でやっていると思っていることでも、じつは何かから影響を受けており、その模倣にすぎない場合が多いというわけである。
かつて、子どもたちは遊びの中でも、友達や先輩、兄弟姉妹、そしてそれを取り巻く大人たちの影響を受けていた。それが今や、部屋に閉じこもってゲームをしたり、即物的なアダルトビデオを見ていたら、「模倣暴力」のみならず、その影響全般は彼らの将来にわたって立ち現われることになるだろう。もっと言えば、人生を変えてしまうことにもなりかねない。
経済が停滞・失速し、売上も利益もままならないとなれば、企業はなりふり構わずというか、御身大切になりがちである。だが、それで一時的に売上や利益が潤ったとしても、社会的責任をまっとうできない会社が生き残っていけるはずがない。僕は、各業界が第三者機関としての自主規制機関、つまりメーカー側の意向が反映されたりはしない、本当の意味での自主規制機関を作ることが急務だと思う。各業界が、たとえ儲けにつながろうとも、果たしてこれを子どもたちに見せたらどうなるのかを考える責任がある。
そして脳科学者は、「メディア暴力」と「模倣暴力」の相関関係などは、とうに知っているはずである。ならば、企業側に加担するのではなく、脳のことをいちばんわかっている彼らが率先して「事実」を世の中に発信していくべきだろう。
他人のことばかりではなく、アダルトビデオの当事者である僕自身はどうすべきなのか。手紙をくれた男性は
〈青少年向けに製作されたアダルトビデオ(日本語としては矛盾してますが)のようなものがあったらいいのかなと思いつきました〉
と書いているが、仮に僕が青少年に向けて作ることになったとしても、おそらくそれは今と同じようなものになるだろう。セックスは、人間の本能が最も剥き出しになる行為である。それをオブラートに包んだり、綺麗きれいに描いても、どこかに嘘が入り込む。真正面から性と向き合いながら、セックスに希望が持てて、人とつながる歓びが感じられる作品を僕はこれからも作っていきたい。
次代をになう子どもたちが、互いに自分という殻に閉じこもり、他者を傷つけることに痛みを感じないばかりか、傷つけるという行為でしか「快」を得られなくなってしまったら、日本経済が好転しようが、GDPが拡大しようが、もう未来なんてないと思うからである。
テーマ :
日記
ジャンル :
アダルト
2012-09-21(00:00) :
週刊代々木忠
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